先日、とある案件でリミックスによる音源制作の相談がありました。
「イベントで流すBGMをリミックスで作れるか?」
という相談でした。
こんにちは、岩崎将史です。
DJ風にして、舞台でパフォーマンスもしたい、と。
お茶の子さいさいです。
ただしそれは
「技術的には可能です」
という状態で、実際にはたくさんのハードルがあります。
著作権だけじゃないんです
多くの人は著作権というのは直ぐに頭に浮かぶところだと思います。
今回のクライアントもイベント運営のプロです。
ですので、日本音楽著作権協会 JASRAC (ジャスラック) には包括契約で費用を払っているから大丈夫との認識でした。
著作権に関してはそうです。
ですのでクライアントが「大丈夫」という気持ちは分かります。
が、リミックスの場合は大丈夫じゃないんです。
著作権は作詞・作曲
著作権は作詞、作曲という著作物に発生します。
作詞は言葉などで分かりやすいですが、作曲というのは音楽に携わっている人でも勘違いしている人がいるくらい分かりにくいみたいです。
何が分かりにくいかというと、作曲と編曲の違いは何?です。
よくSNSなどで「〇〇のパクリじゃない?」と話題になる物の多くは「編曲スタイルが同じ」という場合が多いように思います。
コード進行、テンポ、リズム、楽器編成、各楽器の演奏スタイルなど。
例えば曲は「ねこ踏んじゃった」だけど、それをジャズにしたり演歌にしたりロックにしたり、どういう風にでもできます。
「ねこふんじゃった〜♫」というメロディーが作詞作曲であり著作権。
それ以外の物が編曲以降の作業になります。
以降ってのが大切で、それには編曲も含まれますが、それらを演奏したり録音したり色々な人達が関わって、一般リスナーが聴かせられる状態になっています。
実際の制作現場では、編曲家が完璧に楽譜を仕上げてくるという事もありますが、特にポピュラー音楽においては、アンサンブルに必要な最低限の決め事を書き込み、細かい所は各ミュージシャンに委ねる、という方が多かったりします。
その方が、個々の奏者の特徴を生かした活き活きとした録音作品になりやすいから。
これらの歌詞とメロディーではない編曲以降の作業の部分を、ざっくりと著作隣接権と認識すると分かりやすいと思います。
リミックスではそれらを「そのまま」使いながら、色々な加工や他の音を追加したりしていきます。
はるか昔、全く作曲スキルのない、ただ営業力だけは天才的な自称「天才音楽家と」から、ワンフレーズの鼻歌を吹き込んだカセットテープを渡されて、CMソング1曲に仕上げたことがあります。
大手自動車メーカーでした。
そうなると作曲と編曲(アレンジ)の境目って難しいのと公表時編曲というのもありますが、それはまた別のテーマなので、話を戻します。
リミックスでの大きく2つの仕事
リミックス制作をする場合(リミックスに限らないのですが)、
- どんな曲をやろうか? →企画・製作
- この曲をどうしてやろうか? →制作
と大き2つに分かれます。
音大や専門学校などでは、必ず最初に習う「製作」と「制作」の違いです。
製作と制作の違いはこちらの記事で詳しく解説しています。
間違い探しのようですが、この2つはかなり趣の異なる業務です。
仕事によりけりですが、1の製作は代理店や製作サイドが、2の制作はディレクター、編曲家、リミキサー、トラックメイカーなどの現場が担当る事が多いです。
どちらも物凄く手間の掛かる作業です。
製作の主な仕事
リミックスを1の製作的な段階から相談された場合、客層、環境、イベントの目的を整理し、選曲を通して、
- 集客に繋がるか?
- オーディエンスが盛り上がるか?
- イベントの目的が達成できるか? (認知なのか、物販なのか、リスト獲得なのか等)
などなどを考えなければいけません。
これはマーケティングの基礎知識が重要で僕も勉強してきました。
そして、同時に利用許諾がおりそうか、おりなさそうかという判断もしつつ。
過去の経験から「この曲は絶対ダメだよね〜」みたいな曲もあるので、そういうのは頭から外していったりします。
そして、一つ一つ権利元に当たって、手続きの進め方の確認を取っていきます。
また許諾が下りなかった場合を考えて、第2、第3の予備案まで詰めていきます。
「許諾が下りなかったら次を考えれば良いじゃん」
と思う人もいるかもですが、クライアントがある話なので、色々な可能性を考えリスクの説明を加えつつ決済、承認を頂くように持っていきます。
ビジネスをしている人なら分かるかと思いますが、企画が上層部の決済を通ったら「できませんでした、大幅に内容変えます」とかっていうのは難しいし、下手をすれば担当者の責任問題になります。
クライントの社風というのもあって、やりながら変更みたいな物が予算も含めてフレキシブルであれば、その限りではないですが。
音楽、サウンドを作るよりも大変なのよ
実はサウンドの中身よりもこう言った作業の方が重要かつ大変です。
僕が作曲が本業で、他にできる人いないから仕方なくプロデュース業をやるようになったからかもしれませんが。
ある時は、とある有名洋楽曲の利用が必須で、「まずOK出ないと思いますよ」という管理元に対し、英文で「なぜ必要なのか。どういった社会的意義があるのか」と言うことを訴える文書を作り送付。2ヶ月間に及ぶ交渉の末、OKを頂いた事もあります。
文面を練って、翻訳家に依頼をしてと、結構な労力が発生します。
基本、音楽を作りたい人なので、本当はやりたくないのですが、そのプロジェクトに関わる人達にクライアントも含めて適任者がいなければ、それらの作業も含めて対応するのがプロデューサーの仕事だと思っています。
掛ける時間と労力と楽しさは、音楽の中身より大変なので「製作費」が発生します。
安く済ませたいなら
当然、クライアントであれば製作費は極限まで落としたい。
それは当然です。
慣れているクライアントは製作者として、僕らに徹底的にやり易い環境を作ってくれます。
すでに企画や選曲も済ませ、権利関係もクリアになった状態で、素材のマスター音源データを権利元より借りてきてくれています。
その場合は、音楽作りの実作業の制作費だけで対応できます。
丁度、去年。
欧州のクライアントだったのですが、まさに「今なう」な世界的シンガーのヒット曲のオリジナルトラックが持ち込まれた時は、超感動しました。
どんな交渉でどれだけ費用かかったのかは、想像するだけで恐ろしいですが (笑)
アマチュアがリミックスするときの注意点
今は簡単に誰でも購入したCDからPCと音楽ツールを使って、簡単にリミックスが出来てしまう時代です。
動画に頻繁にアップしている人も見かけます。
僕はリミックスは依頼を受けた時しかしませんので、自分の作品としてリミックス作品を発表することはありません。
凄い才能があっても正しく権利関係を理解しているので、基本オリジナルの作品しか公表していない仲間も多いです。
YouTubeやFacebookなどで1部といえども動画を流してPRや集客している音楽クリエイターもちょいちょい見かけまして、実際は「やったもん勝ち」になっている部分もあるように思います。
今日も1点「これ動画で配信してよいのかな?」というリミックス作業中の動画をタイムラインで見ました。
重クソ、原曲音源が聴こえてましたが(笑)
著作権に関してはYouTubeは包括に入っていますが、元音源を使う場合は隣接権の確認や処理も正しく対応することをオススメします。
というか必須ですよ。
なぜクラブでは市販のCDをリミックスして掛けられるのか?
正しく許諾を取っている音楽クリエイターもいるとは思いますが、ほとんどの場合は「黙認」されています。
音楽文化とかオリジナル楽曲自体が宣伝にもなるとか、実際追いかけようがないとか、色々理由はあるみたいです。
「じゃあ、良いじゃん。気軽に作ってよ」
と言われたりするのですが、それとこれとは話は別で、企業や代理店が入っているような規模のイベントや動画などでやるのは、問題になるという前提で対応しています。
正しく処理をして堂々と聴いてもらおう
僕は実際にクライアントや音楽出版社、レコード会社などとやりとりしながら製作していますので実務的な部分は強いはずです。
ですので、実際にリミックス制作をしている音楽クリエイターには参考にはなると思います。
ただし法律の専門家ではありませんので、あくまでも参考ということで。
せっかく魂を込めて制作するリミックス音源です。
正しく処理をして誰からも後ろ指を刺されることなく聴いてもらえるよう、適切な処理をしましょう。
では、また。