こんにちは、岩崎まさふみです。
今回は前から試したみてかった実験ができたので、ご紹介。
題して「オーディオIFとステージボックスの音質対決!!」です。
ステージボックスの音質が気になっていた
10年ほど前からPAの世界では音の入口がステージボックスと呼ばれる物になっています。
マイクプリアンプ(HA)とADコンバーターが搭載されたステージボックスを舞台袖に配置し、FOHに設置されたPAミキサーまではデジタルケーブル1本で音声を転送します。
古くは太くて重いマルチケーブルを何本か這わせる必要があり、大荷物&重労働になっていました。
良き時代になったものです。
さて、この便利なステージボックスですが、もし音質が良いならレコーディングで使うと相当に便利になるぞと。
何しろ4U~5U程度のボディに32チャンネル分のマイクプリとADコンバーターが搭載され、アウトプット環境やチャンネルの増設なども簡単にできる。
そして、ステージ袖から録音基地までケーブルを1本引けば64ch程度の伝送が可能になる、という正に夢のような仕様。
僕も毎月、何かしらのコンサート録音、ライブ録音を行っていますが、毎回アナログ回線を分岐して引っ張っているので準備も大変だし、機材の量も多い。
もしステージボックスと現在の録音システムで音質が変わらないなら、コンサート録音はステージボックスが良いのではないかと思いはじめました。
そんなタイミングで友人音響マンがコスパの良さげなステージボックスを購入。
早速比較試聴テストを行ってみました。
SOUND GRID対応ステージボックス「CREST AUDIO tactus.stage」
今回ステージボックスを持ち込んで頂いたのは、T-Factory 岩田充氏。
僕の動画やブログでは何度か登場頂いています。
そして持ち込まれたステージボックスはCREST AUDIOというメーカーの『tactus.stage』。
入力数の割に驚きの低価格
今回の『tactus.stage』の販売価格は驚きの50万円程。
安いモ〜!
もちろん50万円は大金ですので、簡単に購入できる金額ではありません。
ですが、32chのマイクプリアンプとADと考えると超絶に格安。
我がフルハウスの機材はマイクプリアンプ32チャンネル分で、250万円程。
そして、32チャンネルのADは120万円程です。
投下コストが7分の1程度で、同じチャンネル数が確保できる。
これは驚くべきコストパフォーマンスです。
コンパクト
そしてチャンネル数が多いのにサイズがコンパクト。
4Uラックで全て入ってるのが凄い。
先日24チャンネルの録音した際のフルハウスのシステムが下の写真。
PC以外が4U収まるなら、運搬機材の容積を劇的に減らす事ができます。
安くてコンパクトでも使えるクォリティでなければ意味がない
ただし、いくら販売価格が安くても、業務レコーディングで使えなければ意味がありません。
今回はその辺りを知りたく検証してみました。
比較対象はもちろん我がスタジオ『フルハウス』のメインシステムです。
マイクプリアンプにはMillennia HV-3D-8。
ADコンバーターにはAPOGEE Symphony I/O MkII。
どのように違いが出るのか楽しみです。
実験の手順と様子
実験は次の内容で行いました。
- ピアノの生録音で比較
- マイク音声をスプリッターで2つに分岐し、Symphony I/Oとtactus.stageで同時に録音
- それぞれの収録音声をWAVファイルで書き出しProToolsで視聴
テスト1
接続方法としては下図になります。
マイクプリアンプはMillennia HV-3D-8を仕様し、マイクスプリッターに分岐します。
これで同じマイク音声を2つのインターフェースで記録できます。
テスト2
次に下図のようにマイクスプリッターのアウトを入れかえました。
変更点はダイレクト・アウトとトランス・アウトを入れ替えました。
理屈的にはというか経験的にもトランス・アウトの方が電気的に少し鈍る可能性があるからです。
両方を聴き比べることで公平を期すことができます。
テスト3
そして『tactus.stage』のマイクプリアンプの性能を見定めるべくテスト3を上図の様に行いました。
音の違い
実験の様子はYouTube動画にしています。
時間のある人は上の動画を見てみてください。
そして時間の無い人向けに下の動画を用意しました。
比較試聴のパートから再生されます。
気になる点はあるが、驚くべきコストパフォーマンス
『tactus.stage』は予想していたよりも良かったです。
50万円という金額を考えたら十分なクォリティと言えます。
ただし気になる所が2点ありました。
- 低域のディケイが膨らむ
- 200Hz~300Khz近辺が物足りない
スタジオのスピーカーで聴くと、それなりに違いが分かりやすいのですが、スマホなどだと分からないかもしれないですね。
それほど『tactus.stage』のサウンドクォリティはレベルが高かったですが、気になる点を解説しておきます。
低域のディケイが膨らむ
音のアタック、立ち上がりはとても良い感じでした。
ただし減衰し始めたときに低域のサウンドがムァ〜ンと持ち上がって膨らむのが気になりました。
実際の生音とは違う減衰の仕方。
これはロック系のベースサウンドなどでは喜ばれるかもしれません。
ただしクラシック録音では明らかに生のサウンドと明らかに違う音量の変化。
そのためクラシック系ではメインレコーダーとして使うには、今少し検証が必要と感じました。
200Hz~300Khz近辺が物足りない
メロディ、ハーモニーの音域とベースの音域の間にデッドポイントがあるというか、少し抜けた部分があります。
これはロック系のマスタリングなどでは、意識的に抜いてベースや低域の分離感を良くしたりします。
そのため今回のテストでも『tactus.stage』の方がメロディが浮き立って聴きやすくなってはいたのですが…
おそらくアンサンブルでは仇となるような気がします。
特にオーケストラでは致命的になるかも。
今後はこちらも、もう少し検証をしていきたいところです。
50万円ほどで32チャンネルが手に入る驚くべき時代
でも凄い時代になったもんです。
この金額で32チャンネルのマルチレコーディングの基本システムを手に入れてしまえるのですから。
2000年代だと、業務クォリティなら先ずは300~400万円からスタートと言う感じでした。
フルハウスはもちろんそれ以上の投資をしています。
ステージボックの導入は?
かなり魅力の多いステージボックスです。
それでは我がフルハウスが導入するのか?と言われると現時点では無しです。
僕のクライアントには合わない
金額もチャンネル数もコンパクトさも魅力たっぷりですが。
僕がロックやポップス系の仕事だけをしているなら導入を考えたと思います。
僕は生録音系のクラシックやジャズが多い。
そうすると、とにかくサウンドは色付けなく記録できるかどうか。
収録音をそのままをボリューム調整のみでトラックダウンするというのが基本です。
今回のテストを聴く限り、低域のバランスは少しEQなど手を加えれば何とななりますが、減衰が持ち上がってくるのは解決方法がないし、後処理で触るべきではない要素だからです。
PAシステムと録音専門システムとの差
とはいえ、動画などで視聴する限りにおいて、ほとんどの人は全く気にならないと思います。
ですので、コスパ良く録音業務を回すという意味では、ステージボックスを利用した録音がメインになっていくでしょう。
それは間違いないと思うんですけどね。
所が…
先日、録音で入らさせて頂いた上の写真のコンサート・イベント。
関東の現場でしたが、以前まではPA会社のステージボックス音声をそのままマルチ録音したデータを頂いて動画を制作していたそうです。
どうしてもサウンドクォリティの不満が解消できなかったとの事で、フルハウスにお問い合わせ頂きました。
担当させて頂いた結果、クライアントからは
前回までの音質とは雲泥の差で皆で感動してます。
という評価を頂き、また当月も関西での会場での録音依頼を頂きました。
そういったクライアントの要望に対応していきたいので、コンパクトで便利はすごく魅力的なのですが、今の所もう少し頑張ろうという感じです。
録音作品・映像作品に求められるサウンドとPAの違い
ちなみに、そのイベントの音響会社はYAMAHAのPAシステムを使っていて、ステージボックスはRioでした。
ライブステージのPA現場では最も一般的なステージボックスでPAのサウンドクォリティは素晴らしかったです。
ですので録音の音質の差もある程度はあったとしても、そこまで大きな差では無いと考えていましたがアップされた動画を比べると全然違う。
単純な機材1つのサウンドクォリティだけでなく「録音して動画にする」という事を前提としてマイキングから仕上げまでの、細かい事の1つ1つの積み重ねの差なのではありますが。
他社製品も試してみたい
こうなってくると別のステージボックスも比較試聴してみたくなってきました。
ヤマハRioをレコーディングスタジオレベルで使ってみてどうなのか?
どなたか持ち込んでください。
一緒に遊びましょう。
ということで、今回はこの辺で。
ではまた。
レコーディング業界ではCREST AUDIOという名前は全然見かけないので、すっかりその素材を僕は忘れていました。
そう言えば大昔、スタジオにバンド練習用のアンプとしてCREST AUDIOのアンプを入れていたのを思い出しました。