岩崎将史です。
2019年の10月にSteinbergより試供いただいているAXR4T。
いくつかのコンサートやライブのレコーディング現場で使用してきました。
これまでスタジオでサウンドを評価する機会はまりなかったので、クラシックピアノ演奏での比較動画を作ってみました。
サウンド評価の方法
フルハウスの現在のメインシステムでのレコーディングと比べてみます。
どの程度サウンドが違うのか、とても気になる所です。
の1つであるMillennia社のマイクプリアンプであるHV-3DとApogee Electronics社のADコンバーターであるSymphony I/Oとの比較です。
接続ルーティング
AXR4Tは4チャンネルのマイクプリアンプと12chのADコンバーターの組み合わせになっているので、フルハウスのピアノでいつも使っているマイクプリアンプとADコンバーターで比較になります。
マイクスプリッターで分岐し同じ演奏テイクをそれぞれに録音
同じ演奏を聴き比べられるようにマイクスプリッターを使用してマイクを2回線に分岐し、同じテイクをそれぞれのシステムでレコーディングしています。
マイクスプリッター自身はダイレクトアウトとトランスアウトがありまして、トランスアウトはトランスを通過する分、若干音が変化します。
マイクスプリッターによる音質差を評価しないように、都度2テイクづつを入れ替えて録音しました。
192Kh/24Bitと32Bitでのレコーディング
Symphony I/Oの最大ビットレードが24Bit/192Khzなのに対して、AXR4Tの最大サンプリングレートは32Bit/384Khzです。
が、スタジオのProTools、Logic、Cubaseなどはいずれも384KhzではAXR4Tを認識しませんでした。
もしかしたらSequoiaでは認識できたかもですが、こちらはマスタリング用に特殊なセットアップをしているので、レコーデイングをするには大幅にスタジオのシステムを変更しなければいけません。
おかげさまで昨年末より膨大な量のお仕事を頂いてまして、その間隙を縫っての実験レコーディングでしたので、そこまでの時間は取れませんでした。
ですので、Symphony I/Oは24Bit/192Khz、AXR4Tは32Bit/192Khzでのレコーディングとなっています。
テスト録音のバリエーション
今回はAXR4Tの次の性能を評価したかったです。
- AXR4Tのマイクプリアンプ部のサウンド
- AXR4TのADコンバーター部のサウンド
そのためにいくつかの組み合わせで8通りのレコーディングを行いました。
マイクプリアンプ部の性能チェック
AXR4Tに内蔵されているマイクプリアンプ部分の性能をチェックするために、2テイクで合計4通りの録音を行いました。
テイク1はこちらの接続ルーティング。
マイクスプリッターで同じマイクのチャンネルを分岐させてます。
1つはAXR4TのマイクアンプとADコンバーターへ。
もう1つはHV-3DのマイクアンプからAXR4Tのラインインプットへ。
そしてテイク2はマイクスプリッターからのアウトを逆にします。
マイクスプリッターはトランスで分岐させているので、当然ですがダイレクトアウトとはサウンドが異なります。(殆ど気にならないですが)
公平性を得るために両方の2テイクを録音して比較試聴します。
これでAXR4TとHV-3Dのサウンドのマイクプリアンプ部分のサウンドを比較することができます。
ADコンバータ部の性能チェック
同じマイクプリアンプを使用して純粋にADコンバータのサウンドも比べてみます。
AXR4Tには背面に8チャンネルのラインインプットがあります。
こちらを使って次のルーティングで試します。
テイク1
テイク2
この2テイクでマイクプリは同じでADコンバータのみ違うという状況が作れます。
マイクプリアンプと同様にこちらもマイクチャンネルスプリッターのダイレクトとトランスアウトを入れ替えて2テイクで録音します。
オーディオ・インターフェースとしての総合性能を評価
最後にオーディオ・インターフェースとしてのサウンド能力をレギュラーシステムと比べてどの程度かを評価できるように、次のルーティングも試しました。
テイク1
テイク2
現在のフルハウスのレギュラーシステムは純粋にサウンドクォリティのみで評価して組みましたので、16ch分で6Uラックになり重くて大きいです。
もしIFとしての能力が優秀であれば1UのAXR4TにHV-3Dを組み合わせれば3Uで12chのコンパクトなレコーディングIFとなります。
そのあたりも期待を持ちつつテストレコーディングを行ってみました。
サウンド評価のYouTube動画
そのテストレコーディングのYouTube動画がこちらです。
ピアニストは平山晶子さんにご協力頂きました。
機器の切り替えは文字だと分かりにくいので、動画では色分けしています。
- 寒色系がAXR4Tの機器より
- 暖色系がフルハウスのいつもの機器より
となっています。
同じテイクの同じ場所での比較動画にはなっていませんが、それぞれのサウンドキャラクターの違いは良く分かると思います。
サウンド評価の結果
サウンドの評価はそれぞれ違うかと思います。
僕や弊社スタッフ、そしてピアニスト平山さんの評価を書きます。
マイクプリ評価
マイクプリの違いは、動画のこの位置で分かります。
3人ともHV-3Dの方が良いという評価でした。
AXR4Tはクリアではありますが、少しパンチがない感じ。
そしてミドルレンジの存在感が少し物足りない気がします。
ADコンバーター評価
ADコンバーターの違いは、動画のこの位置で分かります。
Symphony I/Oはピアノのリリース、部屋のアンビエント成分までしっかり聴こえます。
それに対してAXR4Tはソリッドな印象。
流石に価格差があり過ぎた?
今回の比較はAXR4Tには少し酷だったかと思います。
AXR4Tは4chのマイクプリアンプと12chの入力数で価格が20万円台。
一方、HV-3Dは8chとは言えマイクプリアンプとしてだけの機能で60万円ほどします。
半分の4chと考えても30万円。
これにSymphony I/Oが32chで90万円程度ですので、仮に12chとしても30万円ほどで、同じ同時録音チャンネル数でも60万円になります。
20万円 VS 60万円 の戦いですので、比較すること自体が可愛そうかも。
RMEやUNIVERSAL AUDIOとの比較はどうか?
比べるのであれば、同じ1UのRMEやUNIVERSAL AUDIOのAPOLLOなどの1Uのオーディオインターフェースが妥当だとかも知れません。
両者とも外録などでお借りして使ったことがあります。
ともにサウンドは好印象でした。
ただこちらも価格帯は30万円〜40万円程度。
AXR4Tは20万円台ということで抜群のコストパフォーマンスです。
これらと比べて見たいものですが、今の所、同時に揃うような仕事のタイミングがありません。
もしこのブログを読んで頂いた方で、オーディオインターフェースを持っているので比べてみたいという方がいらっしゃれば、遠慮なくご連絡ください。
一緒に遊びましょう。
機能面の評価
サウンド面以外に暫く使ってみて感じことをまとめてみます。
これらを順番に解説します。
良い部分
1Uでコンパクト
1Uで12チャンネルの録音が可能。
1Uで8chのプリアンプと組み合わせれば、2Uに収まってしまうのは魅力です。
何よりも384Khz
今回は384Khzでのレコーディングが出来ていないので、AXR4Tの最大の売りで評価できていません。
32Bit / 384KhzでのレコーディングできるADコンバーターはまだまだ少ないで、それを手頃な価格帯で手に入れられるのはありだと思います。
が、現状では対応DAWが少ないので、個人的にはDAWと共に他のハイエンドメーカーが384Khzをリリースしてくるタイミンを待った方が良いと考えています。
そして、384Khzのスペックを求めるのは、ハイエンドオーディオ層だと思います。
現状の192Khzのサウンドから考えると、そうした層はチョイスしにくいかも知れません。
20万円台で手に入る
20万円台というのはリーズナブルです。
これ1台で色々完結できますので、ホームユースやチャンネル数の少ないコンパクトなレコーディングセッションが多い人には良いと思います。
残念な部分
残念な部分がいくつかあります。
プロ視点でのかなり厳し目の評価です。
背面のアナログ入力がTRS
これはプロはとても使いにくいです。
基本はXLRとD-Subという規格で業務用機器やケーブルを揃えています。
8chですからTRSを8個ではなくD-Subを1つ付けておいて頂ければ現場で、1回の接続で時短というか他の機器と同じ時間です。
現状だと毎回TRSの変換を8ch用意するのと、8回接続しなければ行けないので不便ですしケーブルが背面で煩雑になります。
またTRSだとやはり接続が甘かったり抜ける系の事故の不安もあります。
背面アナログ入力が5番から始まる
これが僕個人的には最大に嫌です。
プロの機器というのは基本的に8ch単位で構成されています。
AXR4Tも8chの入力とは別に4つのマイク入力があって、
マイクプリがなくても本体だけで4chならレコーディングができます
というのが売りだと思います。
それは良い事なのです。
が、背面のTRSライン入力(AD)を1~8番にすべきです。
例えば毎回お手伝いしている名フィルのコンサート。
他のオーディオ・インターフェースの場合
大抵、こんな感じでインプットを仕込みます。
Microphone | Ma L | Ma R | Wi L | Wi R | Spt A | Spt B | Spt C | Spt D | Spt E | Spt F | Amb L | Amb R |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Mic Splitter | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
HA1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
AD1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
HA2 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | A1 | A2 | A3 | A4 |
AD2 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
HA1とAD1がメインの録音システム。
今回で言うところのMilenniaとSymphony I/Oにあたります。
そして、HA2とAD2がマイクスプリッターで分岐されたバックアップシステム。
RMEなどは良く出来ていてこういう接続が可能です。
これは設計的には難しい話ではないのでプロユースを考えると現状での使用は難しいです。
AXR4Tを使った場合
AXR4Tを何度かコンサート録音の現場で使いましたが、物凄く現場で余分な頭と神経を使わされます。
こんな形のインプットになってしまうからです。
Microphone | Ma L | Ma R | Wi L | Wi R | Spt A | Spt B | Spt C | Spt D | Spt E | Spt 10 | Amb L | Amb R |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Mic Splitter | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
HA1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
AD1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
HA2 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | A1 | A2 | A3 | A4 |
AD2 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 1 | 2 | 3 | 4 |
RMEなどのように背面が1~8チャンネルであれば、基本的に他の機器とインプットのチャンネル数を揃えられます。
が、ズレているために、スポットマイクAの音量レベルを上げようとする際に、他は全て5番を触ってチェックすればよいのに、バックアッブはHA2は5番ながらAXR4Tのレベルメーターは9番を見るという物凄く間違えたら事故になりやすい感じなのです。
うっかり5番を見ていて、
あれ?上がらない、もっと上げないと〜
で気づいたら9番にレッドが付いて音が割れるみたいになりそうで怖いです。
危ないことはありました ^^;。
ゴム足が邪魔
4箇所にゴム足が付いていますので、1Uスペースに収まらない…。
まあコレは取ればOKなのですが、試供頂いているやつなのでそんな事もできず。
ということで問題ではないのですが、一応。
本体の操作性が微妙
これもAXR4Tのネガティブポイントというよりかは、全ての1UラックサイズのオーディオIFに言えることです。
瞬間的にマイクレベルが触れない
このサイズのインターフェースは全てマイクレベルが瞬間で触れないのので僕は普段内蔵マイクプリは使いません。
コンサート等の録音現場では演奏に合わせてリアルタイムで録音レベルを合わせていきます。
MillenniaやGrace Aduio Designなどの8chマイクプリアンプがコンサート録音の現場で世界的に使われている理由は、サウンド面も勿論ですが操作性です。
オーケストラのリハーサルどではフルにダイナミクスが入っていくる箇所は多くありません。
ソロも頻繁に入れ替われいます。
音楽についていきながら瞬間瞬間でレベルを調整し、短時間で録音レベルを決定する必要があります。
1U系のインターフェースはノブがついていますが1つです。
液晶画面とボタンでマイクレベル調整の階層に入ってチャンネルを選択してからノブを動かして調整します。
録音エンジニアは第2の指揮者
アウトボードマイクプリアンプであれば、0.5秒でできる調整が、2~3秒は必要です。
それを32ch分を行ったり来たりするとなると、これはもう地獄の作業です。
録音エンジニアとはある意味で録音版の指揮者のようなものです。
これでは音楽を聴きながらリアルタイムで適正なレベルを録ることは不可能。
PCドライバーソフトを使えば分かりやすい
PC(Win & Mac)用のコントロールドライバーソフトウェアがあり、その画面を起動させておけば全てのチャンネルの録音レベルを調整できます。
これであればリアルタイム性のストレスはかなり改善されます。
ただし、画面をある程度奪ってしまうのでProToolsなどのDAWの画面を削らなければいけません。
総合評価
ということで、僕の総合評価としては、
- メイン機器に変えるの無理
- 384Khzは魅力だが、どうせ買うならハイエンド機器の384Khz機器を狙いたい
- コンパクトかつ低コストなので、バックアップシステムとして選択肢の1つとしてはあり
です。
せっかくご試供いただいたのに少し厳し目の評価ですが、これを見てくれているユーザーにも開発者にもその方が結果プラスになると思いますので、敢えて正直にそのまま書きました。
また同価格帯での比較はチャンスがあったらやってみたいと思います。
ではまた。