こんにちは、岩崎将史です。
たまに学生から質問があるのが、
なんで7thコードだけ、長7度にわざわざMをつけるの?
というのがあります。
僕は疑問に思ったことがなかったですが、
まずコード表記をひととおり覚えるのだ!
とやってしまうと確かに「あれ?」ってなるかも。
コード表記の長短音程を表にしてみます。
短(minor) | 長(Major) | |
3rd | m | |
7th | M | |
9th | m | |
13th | b13 |
7th以外は長音程には何もつかないです。
そして短音程にはマイナーかフラットをつけています。
3和音のトライアドコードを学んだ時に、
長音程は何もつけない!
短音程ならmをつけろ!
と教えられてしまうと4和音が登場したときに、
なんで7度は逆なの〜〜💦
と思う気持ち分かります。
なぜなのか?理由が分かれば簡単ですので解説します。
【回答】合理的かつドミナント7thが機能和声の中心だから
なぜ短7度がそのまま“7”表記で、長7度の時に”M7“なのか?
主な理由は2つです。
- 7次倍音が短7度だから
- ドミナント7thでの使用が元々だったから
以上の2つによって短7度を“7”とすることが合理的だったからです。
逆の方が良いという発想が起こりようもないほどに。
【詳細】ハーモニーの成立とドミナント7th
なぜ合理的なのかの2つの理由で僕はいつも説明しています。
ハーモニーは倍音列から生まれたから
ハーモニーは倍音列から成立していきました。
上記記事では5次倍音までしか扱っていません。
初心者にもわかりやすくするためにあえて5次倍音のトライアドコードまでにしました。
6字倍音は3次倍音の2倍ですので、3次倍音であるパーフェクト5のオクターブ上になります。
基音が440Hzのラなら完全5度の3オクターブ上のミです。
7次倍音が7thになる
7次倍音を計算してみましょう。
ラは440Hzです。
その7倍の数値は3,080Hzになります。
3,080Hzのサイン波を聴いてみましょう。
かなり音が高いのでピッチがよく分りにくいです。
1オクターブ下げると分りやすくなります。
ソということが分ります。
Aを鳴らすと倍音としてはド#、ミ、ソが共鳴して聴こえます。
これら全部を同時に演奏すると、A7というコードになります。
なぜ短7度の7thに“m”を付けないのか?
まず1つ目の理由は短7度が自然に共鳴しているからです。
ピアノで2オクターブ上のGをオープンにして、Aの鍵盤を叩いてみてください。
しっかりとGの共鳴が聴こえます。
4和音はドミナント7thしか使われていなかった
長期にわたる混沌とした中世の時代を経て、ルネサンス期からバロックにかけて急激に音楽が進歩します。
この時期にスケールやハーモニーが今の形になります。
いわゆる機能和声が成立していく初期の時期の話です。
この時代に作られた曲は、基本はトライアドコード。
4和音を使うのは、ほぼドミナント7thだけでした。
300年後になる今でもポップスや歌謡曲では、トライアドコードにドミナント7thだけという曲はあります。
それくらい機能和声は音楽にとって画期的な進歩でした。
ハーモニーの基本はトライアドコード
メジャースケールの場合、
クラシック機能和声
I, II, III, IV, V, VI, VII
ポピュラー音楽理論
I, IIm, IIIm, IV, V, VI, VIIm(-5)
という表記になります。
最初なので両方併記しました。
実戦ではポピュラーの方が使い勝手が良いと思います。
が、今回はクラシック時代の話なので機能和声での表記にします。
両方併記は面倒くさいも〜
トライアドコードには機能性がある
メジャー・マイナースケールでのトライアドコードには機能性があります。
トニック、サブドミナント、ドミナントと呼ばれるもので、文法でいうと主語述語動詞みたいなものでしょうか。
ハーモニーの流れの中で果たす役割の違いです。
ドミナントを7thにすると超良い感じ〜🎵
音楽がガンガン和音化されていった時代ですが、優秀な作曲家の耳には7thの倍音も聴こえています。
弾くと7thとルートが不協和音になる(と当時の人は感じた)ので基本は弾かないのですが、
ドミナントVだけ7thも弾くとめっちゃ良い感じやん(三重弁?)
となったわけです。
スケールコードを楽譜にするとこんな感じです。
楽譜はVとIIに7thの玉を乗っけるのを忘れてましたが…。
機能和声黎明期もほどなくIIも7thを弾くようになりましたので、7thを加えておきました。
ポピュラーでいうIIm7です。
どちらも短7度です。
ハーモニー成立時期において、7thといえば短7度だったんです。
緊張感を生み出すドミナント7th
なぜドミナントだけ7thにすると良い感じになるかを補足します。
ちゃんと書くと別記事1本じゃすまないくらい重くなるのでとりあえずザックリと…。
まずはサイン波で440Hzの整数倍音を7倍まで鳴らしてみた動画を作りましたのでご覧ください。
6倍までのハーモニーはトライアドコードですので、とても綺麗に響きます。
7倍の7thが登場すると、突然緊張感が増します。
これで終わってほしくない。次のコードに進行してほしい感じがします。
を〜素晴らしい感性だも〜
緊張感をうむ理由
なぜドミナント7thが緊張感があるのかというと3つの大きな理由があります。
といっても3つの理由とも根本は一緒ですが。
理由その1
7thとルートはオクターブを変えると短2度の関係にあります。
A7の場合はラとソです。
ソはもう少しだけピッチが高ければ、ラになれます。
ラの倍音列は1倍、2倍、4倍とラの440Hzの整数倍の音がよりたくさんなっていますので、ちょっとだけズレたソの3080Hzというのは、
ソ君よ、無理するなよ。さっさとラの振動の波に乗って一緒に共振した方が楽になって気持ち良いよ〜🎵
と言っているのかは分かりませんが、少なくとも僕はそう感じます。
大勢力に反発して少数で頑張っているソ君ですが、負けそうです。
僕みたい…(笑)
理由その2
機能和声でリーディングノート(導音)と呼ばれるスケール上の7度の音が入っています。
A7がドミナントのメジャースケールはD Majorですので、ド#の音が導音です。
A7の第3音がスケール上の導音になっています。
理由は割愛しますが、この音は楽曲の中で短2度上のトニック(主音)へ導く音になっています
この場合はC#の音はDヘ移動したくなります。
理由その3
トライトーンだからです。
ほとんどの理論書はこの理由で説明されていると思います。
A7の場合は、3rdのド#と7thのソがトライトーンになっています。
トライトーン(全3音)のハーモニーは3度(もしくは6度)へ解決したくなります。
A7ではソは半音上のラへ解決したくなります。
そして3rdのド#はスケール上の主音であるレへ解決したくなります。
その1とその2との複合理由というかさらなる強化版みたいな感じです。
ドミナントを7thにしてトニックに戻す進行は、強烈な緊張と解決による終止感を産みます。
うむ、これは良いがや(名古屋弁)
機能和声が成立して以降の音楽は、このドミナント7thからトニックへの解決を中心にして作曲が進められていきました。
【事例】バロック曲から現代のポップスまで
そのような楽曲の例を具体的に上げるとすれば、たくさんありますがバッハのインベンションが分かりやすいと思います。
J.S.Bach Invention 1
バッハのInvention 1はの鍵盤を学ぶ人は必ずやる曲だと思います。
ひたすらI-V7-Iが繰り返される曲です。
時々IVとかVIとかが出てきたり転調も美味しいですが、いかにT-D7-Tが全体を支配しているのが分かります。
金沢音楽制作 J.S.バッハ《インヴェンション第1番》構造と分析 より引用
子供向けのシンプルな曲はほぼドミナント7thのみ
わざわざ事例を出すほどでもないと思いますが、ロンドン橋。
こうした子供向けの曲、童謡などは、4和音はほぼドミナント7thしか出てこないものが多いです。
現代の歌謡曲、ポップスでも4和音は短7度だけという曲はある
ここ書いてると日が暮れてしますので、書きませんが珍しくはないです。
音楽をやっているあなたなら分かるはず…。
ちょっと疲れてきてたも〜。
投げやりだも〜。
【まとめ】もし逆だと全てが大変。理由が分かるとこの方がスッキリ
なぜ7だけは短7度が7で、長7度をM7なのか?のまとめです。
7thといえばドミナント。現代でも多くある。
理由は、音楽の発展の中で7thは最初はドミナント7thしか使わなかったからです。
そして現代でも日本の歌謡曲やロックだと、テンションノートは使わずに7thが登場するのはドミナント7thだけという曲は多くあります。
短音程のみm表記をもししたら、読みにくくなる
もし、表記を長音程は数字だけ、それ以外は何かつけるというルールで表記したら、A7はA(m7)とかA(b7)とかになると思います。
Am7やAb7との見分けが難しくなりそうですね。
このことからも向かない表記方法だというのが分かります。
さらに少し慣れてくるとコード進行をみてドミナント7thの位置を軸に曲の流れを瞬間的に把握できるようになるので便利です。
歴史的にも科学的にもマッチしたとても合理的な表記方法
ということで、初学者を一瞬悩ませてしまうコード表記の7thについて。
ハーモニーが成立していった仕組みが分かれば何も不思議ではなくなります。
歴史的にも科学的にも非常に理にかなった表記方法ということがお分りいただけましたでしょうか?
信じるか信じないかはあなた次第
なお毎度のことながら「僕の解釈」であって、何かの資料に明確に記載されていたり誰か偉い先生に指導いただいた物ではありません。
ただ機能和声を習得した人や古典から入った人にとっては自然に分かることなので、誰も表立って解説する必要がないからだと思います。
学生の視点はいつも新鮮で面白いです。
以上「なぜ7thだけ長7度にMをつけるの?」でした。
信じるか信じないかはあなた次第だも〜
では、また。