こんにちは、岩崎まさふみです。
20年間愛用してきた「伝説的なマイクプリアンプ」を売却する事にしました。
過去記事でも取り上げてきました「Brent Averill Neve 3405 MODULE」です。
伝説のコンソールから抜き出したマイクプリアンプ
「Brent Averill Neve 3405 MODULE」がどんなプリアンプかというのを簡単に說明をすると、1970年代~80年代に大活躍をした伝説的なミキシングコンソールがあります。
Rupert Neve 氏が手がけたNEVEコンソールです。
Rupert Neve 氏とは?
Rupert Neve 氏はプロ・オーディオ界のレジェンドで今年2021年に94年の生涯を閉じました。
氏の詳細は数々の記事で語られているので、それらを読んで欲しいです。
参考までに1つ記事を紹介しておきます。
Rupert Neve 氏が当寺に手掛けた大型コンソール (レコーディングミキサー) は音が太くすこぶる良い事が特徴でした。
1970年代~80年代に向けて発展し成長していったレコード産業のスタジオを支えた代表的なコンソールを開発していました。
絶頂期を終え縮小化していったレコード産業
時代は進み1990年代も後半になると、レコード産業は少しづつ縮小していきました。
理由は様々でココでは語りません。
兎にも角にもニューヨークのヒットファクトリーに代表されるような超有名大型スタジオが次々と閉鎖。
世界一レコーディングスタジオの多かったナッシュビルでも次々と閉鎖をしていく状況を、親交のあった在住エンジニアから聞いていました。
大型コンソールからチャンネル・モジュールの時代へ
音楽レコードのコンテンツ制作費は縮小の嵐にあい、大人数のバンドやオーケストラなどの生演奏を収録できるスタジオから、小さなスタジオで個々に楽器を重ねていく低予算な録音スタイルが主になっていきました。
32チャンネルや48チャンネルもの巨大なレコーディングコンソールは設置する場所もなく、ひたすらに解体されていきました。
その様な中でテックエンジニアであるBrent Averill 氏が解体されたNEVEコンソールから、マイクプリアンプ部分を抜出し、ラックモジュールに入れ直して販売をしていたのが、今回売却を決断した「Brent Averill Neve 3405 MODULE」です。
何故売却するのか
「何故に売却するのか?」と問われれば、それはズバリ「資産の有効活用」です。
ここ1年での「Brent Averill Neve 3405 MODULE」の稼働率をみると、2~3日しかありませんでした。
他にも多数所有するビンテージNEVEのプリアンプ
僕のスタジオ「フルハウス」には他にもビンテージNEVEのプリアンプが多数あります。
特に存在感を放つのがFocusriteの「ISA115HD」。
メーカー名こそNEVEではありませんが、NEVE氏がFurcusrite社へ移って製作した初期のプリアンプです。
Focusriteの潤沢な資金を利用して最高のプリアンプと言われていました。
というかEQも付いているのでステレオチャンネル・ストリップと呼ぶべきでしょうか。
まあ、この辺りは僕もリアルタイムではなく1992年頃から大手音楽出版社などのスタジオにクリエイターとして呼んで頂けるようになり、これらの機材に触れて知ったという感じです。
最初にその音を聴いた時は、僕が普段つかっているオーディオインターフェースとのは、音のヌケ感、ふとさ、存在感、迫力などが全く別次元で感動しました。
現代のレコーディングでは同時32チャンネルで十分
現代のレコーディングで同時に使うプリアンプは32ch程度までもあれば十分です。
7~8年前であれば、まだ時々48チャンネルやそれ以上が同時に必要なレコーディングセッションもありましたが、現代ではまずありえません。
仮にあったとしても、その都度必要な機材などをレンタルする方が経済的には合理的です。
プリアンプは組み合わせとバランスが重要
32チャンネルのマイクプリをスタジオに常設するとした際に、どのような組み合わせ構成にするのか?はかなり重要です。
ここで少し僕のマイクプリ選定の考え方を解説します。
マイクプリアンプの4つの方式
マイプリを僕は4つの分類で捉えています。
- チューブ
- トランス
- オペアンプ
- チップ (石・シリコン・半導体)
なんとなく上から歴史順に並べたイメージです。
それぞれサウンドの特徴が違います。
ここではその違いについては解説しません。
(リクエストがあれば取り上げます)
スタジオ「フルハウス」のマイクプリ構成
現在のフルハウスのマイクプリ構成としては下記表です。
分類 | メーカー | モデル名 | チャンネル数 |
---|---|---|---|
半導体 (シリコーン、石) | Millennia | HV-3D x 2台 | 16 |
半導体 (シリコーン、石) | REVAC | NM-800 | 8 |
半導体 (シリコーン、石) | Grace Design | M501 x 2台 | 2 |
半導体 (シリコーン、石) | Maag Audio | PreQ4 x 2台 | 2 |
チューブ | Manley Labs | Dual Mono | 2 |
ビンテージトランス | Focusrite | ISA115HD x 2台 | 4 |
ビンテージトランス | BrentAverill | Neve 3405 MODULE | 2 |
オペアンプ | なし | なし | なし |
36 |
何となくの使い方としては、基本はノイズも少なくトランスペアレントに録音できる石系をメインに使います。
その中で、ボーカルやベースなど音楽の中で最も存在感、フォーカスを与えたいパートにManleyなどのチューブ系を使う事が多いです。
トランス系はバックグラウンド・ヴォーカルなど、同じ楽器がパートを重ねる際に使ったりします。
そうするとほぼEQなどの調整なしで、実に良い感じで立体的なサウンドアンサンブルを得ることができます。
そんな感じで使い分けていますので、トランス系は4chもあれば僕には十分なんですよね。
オペアンプが無い→注文
そして、このブログを書いていて気づいたのですが、
オペアンプ系がないモ〜
オペアンプと言えばAPI、APIといえば512c。
僕は大好きなんです。
付き合いのあるスタジオやエンジニアには過去20年間、進めまくってきて導入してもらい使ってきました。
常時取引をしているお隣の某スタジオは、まんまフルハウスと同じ様な構成でプリアンプを入れてもらっています。
そう考えるとやっぱり「Brent Averill Neve 3405 MODULE」を売却してAPIにすべきだよなと。
ということで先程、API 512cをポッチたモ〜
あ〜また散財…。
「Brent Averill Neve 3405 MODULE」がいくらで売れるか分からないので、ひとまず2台だけにしておきました。
APIも本当に良いプリアンプです。
ハイスピードで明るいサウンドが特徴で、しかもボーカルなどは太くダイナミクスが自然に聴こえます。
今の僕にとっては、この方が自分の作品やクライアントをより幸せにできる構成だと思います。
「Brent Averill Neve 3405 MODULE」を残すべき状況は?
「Brent Averill Neve 3405 MODULE」を、もし残しておけるなら残しておきたいという愛着はあります。
ただし、僕はプロとしてビジネスでやっているので、思いよりも結果とプロセスの数値が全てです。
昨年の稼働率をみると、この機材が眠っているだけというのは良くありません。
株式会社を経営する社長としては当然の判断です。
高価なビンテージ機材が多すぎて余っているなら、よりクライアントに貢献して資産を産むべき物に投資されるべきです。
複数スタジオが必要になるなら…
将来的にスタジオ数を拡大していけるような事業モデルならば話は別です。
第2スタジオや第3スタジオに使うべきでしょう。
ただし僕が生きている間にレコード業界が再びその様な環境を求める時代はこないだろうなと。
音楽コンテンツの製作はよりパーソナライズされていきます。
大規模に数多く制作するのではなく、1つ1つをしっかりと作り上げていく思いの方がより重要になっていきます。
そう考えると今の状況には少し過ぎたる環境といえるかも知れません。
ヤフオクに出品
そんな事を考えた結論として、ヤフーオークションに出品しました。
流石ビンテージ機器のパワーです。
あっという間に高額になって、少しビビってます。
API 512c 2台分の元は取れそうで良かった…。
ビンテージNEVEのトランスを探している人には、とても良い機器だと思います。
とあるプロ・オーディオ機器開発のエンジニアは、
あの時代のトランスの素材配合は偶然の産物も。
今、同じ音のでるトランスは作れないよ〜
と話をしていた事があります。
そこまでの技術的な話は僕には分かりませんが、とにかくも世界での個体数が限定されている貴重な機器ではあります。
凄さを実感した録音
最後に「Brent Averill Neve 3405 MODULE」を使った最も印象的な録音セッションを取り上げておきます。
Masafumi Iwasaki project 「Impatient」
少し古い録音でしかも自分の作品で恐縮ですが…。
しかも当時のYouTubeはアップロード後の音質が良くなくでして…。
この楽曲の収録時に、もっともピアノに会うマイクプリをスタジオの所有機材全て試しました。
そしてチョイスしたのが、「Brent Averill Neve 3405 MODULE」でした。
無調整で自然なバランス
何がポイントだったのか?というとダイナミクスです。
この録音とミックスは、少しだけ超低域をEQで削っていますが、それ以外は一切何もしていません。
ピアノの音量の調整なども一切行っていなくて、もちろんコンプレッサーなどのエフェクトも使っていません。
大抵はバンドでのピアノの場合、弱いところのボリューム上げたり、強すぎるところを下げたりという調整が少し必要です。
マイクを通すと少し弾いた時の印象とは違って聴こえます。
ところが弾いたままそのままのダイナミクス感(自分にとってですが)が、そのままスピーカーから聴こえてきたのが「Brent Averill Neve 3405 MODULE」でした。
フォルテで弾いても耳に痛くなく、ピアニッシモで弾いてもしっかりと存在感があって埋もれない。
ISA115HDとバッティング
ただし、上にも述べたようにフルハウスでは今ではISA115HDもあり、聴き比べてもほぼ同じかISA115HDの方が僕の好みにはあっている事が多いです。
ISA115HDは4チャンネル分もあるので、「Brent Averill Neve 3405 MODULE」の電源を入れる事態になる事がない、と。
そんな状況ですので売却を決断しました。
Brent Averill Neve 3405 MODULEの写真を残す
ということで、語ると終わらなくなる機材話しですが、今回はココまでにします。
最後にヤフオク用に撮影した写真たちを一挙に掲載。
ヤフオクは時期が経つと消えてしまいますからね。
スタジオで照明も使って気合を入れてというほどでもないですけど、撮影しました。
必要としている良い人に是非使っていただけたらと思います。
ではまた。