岩崎将史です。
ミュージカルとは?についての解説です。
ヨーロッパからアメリカへ
ミュージカルはオペラやオペレッタを状況にあわせて発展・改良させてできたエンターテインメントです。
近世の幕開けと共にイタリアで生まれたオペラはフランス、神聖ローマ帝国(ドイツ圏)などで1800年代に発展のピークを迎えます。
時代とマーケットの変化で誕生
その後、1900年頃になると世界の経済の中心はアメリカ、その中でもニューヨーク、マンハッタンに移ります。
様々なビジネスが生まれ経済が活性化し、多くの音楽出版社がNYのティン・パン・アレイに事務所を構えました。
そして音楽出版社はショービジネスで、より多くの市場と利益を獲得しよう動き出します。
ヨーロッパでやっていたオペラをそのまま持ってきても、ショーとして目新しさがありません。
「人々の心をどうやったら動かせるのか?」を興行主は考えだしていきました。
そしてニューヨークではブロードウェイという通りには劇場街があり、ブロードウェイといえばミュージカルの代名詞になっています。
イギリスはロンドンのウェスト・エンドも劇場があつまりブロードウェイと並んでミュージカルの聖地と言われるときもあります。
なお、僕はイギリスはロンドンのウェスト・エンドでフランスのパリが舞台のミュージカルである「オペラ座の怪人」を見た、という文字だけでみると大変にややこしい経験をしております。
オペラとの違い
アメリカの新市場でショービジネスとして展開するには、オペラには色々な問題がありました。
- ストーリーが重い、難しい、親近感がない。
- 歌詞がよくわからない。日常の発声と違う
- 音楽が真面目、俗っぽくない。
などなど。
なんかオペラ愛好者には怒られそうですが、ご容赦を。
言うまでもないですが、どちらも素晴らしい舞台芸術です。
庶民にもウケるように変化
なぜそのような問題があったかというと、オペラは市民が対象でしたが、ミュージカルは庶民が対象でした。
より多くの人にリーズナブルな価格で楽しんでもらって、ショービジネスとして成功させようというのがミュージカルのスタートでした。
一方、オペラは芸術作品としての位置づけが強く、近世では王侯貴族がシーズンでボックスを買いが得ることによって成り立っていました。
客層も市民が中心。
現在でも行政がサポートをする形になっているところが多いです。
ストーリーをライトに変化
庶民の娯楽としてビジネスを成立させるため、最初はコメディー劇としてスタートしていました。
ミュージカル・コメディと呼ばれ、他愛のない喜劇的な物語を中心にあつかっていました。
やがて本格的な物語性のある作品を扱うようになり、演劇性、音楽性なども高度になるにつれコメディというワードが外れて単純にミュージカルと呼ばれるようになりました。
普段どおりの分かりやすい発声に変化
オペラはいわゆるクラシカルな声楽の発声方法です。
参考にYouTubeで公開されているオペラ、ベルディのリゴレットのURLを貼っておきます。
おそらく権利の関係で埋め込み再生ができないんだモ〜
これは電気のない時代に生の歌声を会場の全員にしっかりと届かせるために培われた発声方法でした。
そのため日常の会話とは違うニュアンスで庶民には良く分からない、少し高尚な物と認識されがちでした。
地声で声でセリフや歌唱をすると生声では遠くまで届きません。
そこで当時の人達はこう考えました。
だったらPA使えば良くね?
PAで声をスピーカーから出すことができれば、普段どおりの話し方や地声での歌唱もしっかりとお客さんに届けることができます。
と言っても実際にはきちんと訓練をした人でないとマイクでも声の乗りは全然違います。
誰でも良いとはなりません。
以前、レ ミゼラブルやミス・サイゴンに出演されている女優さんの歌のでアレンジや録音をさせて頂いたことがあります。
某国立藝大声楽出身で、クラシックもバッチリかつポップスも激ウマ。
複雑な多声コーラスハーモニーのパートも楽譜を見ながらほぼ所見でバリバリと歌って頂けました。
トレンドに合わせた音楽に変化
ミュージカルが登場しだす1900年前後。
音楽シーンはニューヨークに居を構えた音楽出版社を中心にポピュラーミュージックが盛んになっていました。
初期の頃はニューオリンズにオペレッタ的な作品を持ち込み、ショーとして発展させたので、クラシックにジャズの要素を加えた要素が強くなっていったとも言われています。
肉体的な魅力もアピールするように変化
演技と歌や音楽だけでなく、役者の肉体的な魅力もショーとしては重要でした。
そのため出演者にはダンスの技術も要求されていきました。
グランド・オペラでは声楽家とは別にバレエなどが登場します。
声楽家とダンサーの役割が分かれているのがオペラの特徴の1つです。
ショービジネスとしての生産性アップを目指して
庶民から評価を得られるショーを作るだけでは興行主としては十分ではありません。
ビジネスとして採算性を高め、利益を出し株主に還元していかなければなりません。
中身をより工夫すればするほど、評判を呼びやすくはなりますが、その分やることが増えて様々なコストが増えます。
例えばPAが必要になる時点で音響の技術者が複数名必要になりますし、システムも必要です。
出演者一人ひとりの仕上がりもオペラよりも時間が掛かります。
毎日複数回の公演を実現
ショーとしての収益性を高めるために、毎日、複数回の公演というのを前提にして演目が制作されることが通常でした。
オペラでは生声を響かせるために体力を使います。
技巧的に肉体に付加のかかる高度な事も要求され場面もあります。
ミュージカルが簡単というわけではないですが、ポピュラー音楽として聴きやすく歌いやすい楽曲にする傾向があります。
長い公演期間
ミュージカルは一度演目の制作が終わると、毎日の公演を数年間も続けます。
多くの場合は集客が落ちるまでは続けていました。
そのため公演までの準備に日数と費用がかかっても、ロングラン公演を目指して制作されることが通常です。
ミュージカル映画もブームに
1900年初頭には映画が誕生します。
1920年ころまでにはハリウッドに映画会社が集まり聖地となりました。
最初はサイレントでしたが、1926年にトーキー映画が発明され音声をのせることが事ができるようになりました。
するとミュージカル映画が大流行します。
歌手や演奏者の出演がレコードの売れ行きに影響をあたれるようになり、タイアップが進みます。
現在のミュージカル
ここまではミュージカルが生まれた当時の背景と特徴について書いてきました。
現在ではミュージカルが誕生してから100年以上。
状況はさらに変わってきています。
音楽演奏の方法
初期のミュージカルは生のオーケストラ(ジャズ・オーケストラ的な物も含めるとして)が基本。
王道としては今も変わっていませんが、予算や運営上の観点から日本の小規模な公演では、オーケストラではないことも増えてきました。
- 録音済みの音源(要はカラオケ)
- エレクトーン(色々な音が1人で出せる)
- 小編成のコンボバンド
などです。
そんなものはミュージカルじゃない。
オーケストラじゃないと。
という意見もよく聞きます。
見方によってはそれも正しいと思います。
実際に使われている例
実際に録音音源はキャッツなどで有名な劇団四季でも使われています。
僕が教えに行っている名古屋音楽大学でも学生たちがエリザベートなどの公演を行っていました。
学生などの予算をかけられない公演ではエレクトーンや小規模なコンボでの演奏が必要になります。
昔見にいった元宝塚メンバーのミュージカル公演もコンボバンドだったりしてました。
予算削減だけでなく売上げアップができる場合も
オーケストラピット(略称:おけぴ)が必要なくなるので、ホールによっては客席数を増やせる(=売上げアップ)というメリットもあります。
ミュージカルとは何か?
ミュージカルが何か?というのは定義をどのように設定するかによって変わってきます。
ネットでも色々な意見が…
こんな風に書かれている記事がありました。
オペラは、ミュージカルの源流となったパフォーマンス形態ですが、ミュージカルとの違いはより明白です。オペラは基本的に歌唱を主な要素として物語が進行していきます。踊りはオペラではほぼ用いられません。
そうとも言えるしそうとも言えないかな、と。
グランド・オペラではバレエと組み合わせるのがデフォルトになっていますので、踊りの要素もある。ただし別の人だけど。
あと、初期のミュージカル・コメディとオペレッタの区別は明確にあるわけではないようです。
また別の記事では、
「音楽と歌とダンスが入った劇」
もじゃもじゃ頭のブログ より引用
という説明はざっくりしていてなんか納得ができない。
そもそもダンスが入っていないミュージカルだってたくさんあるし・・・・
こちらはその通りだと思います。
Wikipediaに書かれている、
ミュージカルは、音楽、歌、台詞およびダンスを結合させた演劇形式。ユーモア、ペーソス、愛、怒りといったさまざまな感情的要素と物語を組み合わせ、全体として言葉、音楽、動き、その他エンターテイメントの各種技術を統合したものである。ミュージカル・シアター(演劇)の略語で、ミュージカル・プレイ、ミュージカル・コメディ、ミュージカル・レビューの総称である。
wikipedia より引用
という説明に対してのリアクションでした。
歴史や経緯だけを知っておけば十分
人それぞれやその人のポジションによって定義は変わってきます。
ですので、僕は歴史や経緯だけを知っておけば良いと考えています。
これは何事においてもですが。
現代では刀剣乱舞に代表されるような2.5次元ミュージカルと呼ばれるジャンルもあります。
めっちゃハマっている学生が何人かいますが、古典的な価値観でいえばミュージカルじゃないという意見もあるでしょう。
ミュージカルの定義という点では、初期の概念から外れている部分も多くミュージカルではないという意見にも納得できます。
そして、市場のニーズにあわせて内容を変えることこそがミュージカルの本質とも言えます。
では、また。
コメント
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