岩崎将史です。
先日マスタリングした作品が公開されました。
ちょっと変わった面白いマスタリングでしたので、少しブログで解説してみます。
作品はこちらのYouTubeでダイジェストが聴けます。
Oriverというハンドルネームで音楽活動をされている方です。
基本を押さえたしっかりと作編曲と演奏スキル。
とても良い曲ばかりです。
過去の録音作品を集めてCDにしたい
音楽学校で作曲を学んでいた学生時代に音出しの授業で録音した作品たちとの事でした。
過去の記録録音を集めてCDにしたいとのことでした。
YouTubeを見ると2005年の作品もありますので、19年前になりますね。
年代が違えばサウンドキャラクターが全然違ってくるので、それを1枚のアルバムとして統一感を持たせるというのが、マスタリングの第一の指名になります。
様々な場所での録音
録音が学校にて行われたとのことです。
スタジオやホールという訳ではなく、小さな防音室だったり、防音室でもない普通の教室だったり、広めの会議室だったり色々なところで録音されたそうです。
室内楽アンサンブルは特に、部屋の大きさや反響の質がとても重要です。
録音に適した場所ではなく、サウンドの質感がバラバラということで、その辺りを違和感を減らしたいとの事でした。
録音方法もそれぞれ
録音方法も色々だったようです。
音楽家の先生達が自らで録音するということで、当然ですがクラシック録音の手法はご存知ありません。
伺った録音方法としては、SHUREのSM57を部屋の左右の隅に置いて、中央に向けてセッティングし、それだけで録音した時もあったそうです。
そのためレコード作品として良い感じでオーディオスピーカーなどで再生するためには、色々と処理が必要と感じるサウンドでした。
というか正直に書くと、
これは難易度、高いも〜
マイキングの基本についての参考過去記事
オーディオ的処理の前に音楽的処理をマスタリングで
部屋の広さや形、学期の配置、マイクの収録位置などの影響で、楽器のバランスが適切に録音されていない作品がいくつかありました。
曲のある部分で突然ホルンが大きくなり過ぎていたり、バイオリンがフォルテになると耳に痛く感じるほど大きかったり。
本来のマスタリング作業行うオーディオ的な処理の前に、音楽的なバランスの処理が必要でした。
とは言えマルチマイクではなくステレオのWAVファイルになっていますので、各マイクのバランス調整などのミキシングを行う事はできません。
マスタリングでのEQオートメーション
そこで今回はEQのオートメーションを多様することにしました。
特に楽器群にフォルテになった時にある程度抑え込む処理が必要です。
これはホールなどと違い部屋が広くない場合、メインマイクと楽器群との距離さが大きくなるために通常のコンサートよりも拡大して解釈されます。
プロが録音する場合は、そのような環境でも近接マイクを設置することにより、フェーダーオートメーションでその差を補完します。
が、今回はメインマイクのみということでしたので、この必殺技を発動した次第です。
上記のスクショの感じで適切に帯域のバランスを本来の演奏の意図通りのバランスに仕上げていきます。
Masteringを終えてデータをお送りしたあら、Oriverさんから下記のメッセージを頂きました。
マスタリングデータ、確認させていただきました。
全体的にビットレートが上がったような、元が元じゃなかったような高品質な音になっていてびっくりしています。
ありがとうございます。
今回はEQの深さも今までない大胆な調整が必要でしたが、上手く行ってよかったです。
本物のクラシックに携わってきた経験が必要
この辺りのバランス感覚というのは、マニュアル化できる物ではありません。
サウンド聴いた時に「アレンジャーや指揮者の意図はこうだった筈だ」と感じる力が重要です。
自画自賛をしたいわけではなく、音楽のエンジニアリングに携わるのであれば、絶対に必要な感覚でこれらはエンジニアリングを勉強しようとして身につけられるものではありません。
学生向けへのコメントになりますが、機械技術的な話よりも、実際に生のアンサンブルを演奏し、できれば作編曲も行い、一般的に求められる理想のアンサンブルの感覚や個性の幅を体で感じる事が重要です。
今回の作者も枝葉の細かい所は違えど、音を聴けばその根本をしっかりと理解され同じ感覚であることは瞬間に伝わりました。
ということで、取り留めもなくなってしまいましたが、作品紹介ということで。
ではまた。