岩崎将史です。
「インターネット回線の使えない公共ホールでのウインドオーケストラのライブ配信をしたい」
昨年の2020年、「名東ウインドオーケストラ」という市民ウインドオーケストラからの、そのような依頼がありました。
その映像音声がコチラの動画です。
上記動画は資料としてダイジェストになっていまして、本番全編をご覧になれるのは当日の生配信のみです。
そのため全編は既に視聴することはできませんが、どのようなライブ配信だったのか?の雰囲気は伝わるかと思います。
コロナ禍において客席を埋めてのコンサートの開催は難しい時代です。
改めて非常事態宣言が出される中ですが、今年もライブ配信の依頼が沢山入ってきています。
とはいえ予算を掛けてプロに頼むのが難しいコンサートもあるかと思います。
そこで「めいとう音楽会2020」の、
- インターネット回線が使えない公共ホール
- 人数の多いウインドオーケストラ
というライブ配信をどのように行ったのか?をお伝えすることにより、高品位かつ視聴者の楽しめるライブ配信が実現するための何かの助けになればと考えましたので、何かの参考になればと詳細を記しておきます。
インターネット回線のない公共ホールでのライブ配信
日本国内の多くの公共ホールでは有線LANケーブルによるインターネット回線を利用できない場合がほとんどです。
マルチSIM回線を使った配信機器によるライブ配信
その解決策としてはいくつかの方法がありますが、今回は「マルチSIM」と呼ばえる配信システムを持ち込む事にしました。
上の写真の左手にある機器がマルチSIMによる配信機器で「LIVE Uプラス」と呼ばれる配信専用の通信機です。
「LIVE U プラス」以外にも他のモデルや他メーカーの製品もあります。
今回は「Live U プラス」を使いました。
もっとも安価なマルチSIM配信機器「LIVE U Solo」
今回持ち込んだ「Live U Solo プラス」は、携帯SIM回線が4波と外部機器を組み合わせると6波が扱えるものです。
これまでも月に何日もライブ配信の1年間ほど運営をしてきましたが、都心でも4~6波程度あり主催者の協力があれば安定したライブ配信が可能で止まったことは1度もありません。
代理店は三信電気
「Live U Solo プラス」というのは日本国内では三信電気が代理店です。
業務用の映像や音響機器を長く扱っています。
レコーディングスタジオで世界的大定番のavidのProToolsも扱っています。
購入初期費用は30万円程度
「Live U Solo プラス」は周辺機器なども合わせると30万円程になります。
個人で購入するには少し高いです。
ただし下位モデルのSIMが2つまでの「Live U Solo」という「プラス」が付いてない古いタイプの機種があります。
上記の「Live U」はSDI入力はなくHDMI入力のみです。
映像音声回線も僕のような業務用途ではSDIケーブルというの使いますが「そこまで必要ない」という人は安価なHDMI入力のみのモデルでも良いかもしれません。(僕は絶対にSDIを選択しますが)
SDIケーブルについては、過去記事をご覧ください。
SDI入力がない分だけ本体価格が安く設定されていて、20万円を切る価格で購入できます。
頻繁にインターネット環境がない場所でライブ配信を行いたい人は、購入を検討する価値はあるかと思います。
ただし自前で導入には、
- 通信キャリア回線費などのランニングコストが発生
- 場所によってベストな通信キャリアの組み合わせが変わる
- 5Gが一般的になると必要なくなる
などがありますので、購入には十二分な検討が必要です。
通信キャリア回線費などのランニングコストが発生
携帯電波の回線を複数使いますので、その数量分だけの回線契約が必要です。
経験値的には2波だと弱いので、4波は欲しいです。
その場合には、毎月4波分の通信契約量が必要です。
定期的なライブ配信でそれなりに収益をあげている人でないと難しいかと思います。
場所によってベストな通信キャリアの組み合わせが変わる
4波の契約をするとした際に、どのキャリアと契約するのかも重要です。
理由は会場によってベストなキャリアの組み合わせが変わるからです。
必ず下見をして各キャリアの電波状態をチェック
僕が配信の依頼を受けたときは、必ず現場会場を下見します。
そこで複数の携帯キャリア回線の状態を調査します。
会場によって「docomo」なのか「AU」や「SoftBank」なのか、どのキャリアが電波が入りやすいかが違います。
会場に最も適したキャリアや場合によっては、
- docomo を2回線
- AU を2回線
などと組み合わせる事もあります。
いつも同じ会場でライブ配信を行う場合には良いのですが、そもそも同じ会場であるならばおそらく回線工事を別途した方が安く済みますし、より配信の品質も上げられます。
毎回会場が異なるようであれば購入よりも都度レンタルで会場に合わせたキャリアのSIMを借りた方が合理的かもしれません。
より安定を求める場合は
「Live U Solo」は個人ユーザー向けの機会ですので、絶対に確実安全な配信機器ではありません。
メーカーも業務用途には「Live U Solo」ではなく、業務用の上位モデルを使うことを推奨しています。
予算がある案件では「LIVE U Solo プラス」ではなく「LIVE 800」などの上位機種がより安心です。
こちらは携帯SIM回線が8波などの増えるだけでなく、受信サーバーサイドも自前で構築することにより、より安定性を増し高度な設定をすることが出来るようになっています。
ただし値段が数百万円単位になりますので、個人で導入する人はまずいないかと思います。
公演に合わせて都度レンタルで使用するのが一般的でしょう。
会場に合わせてベストなシステムをレンタル
上記のような様々なリスクもありますので、僕の結論としては「マルチSIM配信機器は会場や内容に合わせて都度ベストな機器をレンタルする」というのが正解だと考えています。
他のお請けしてきたライブ配信も全て同様ですが、下見を行い主査者と予算規模感やリスクヘッジの重要性などを打ち合わせさせて頂いて最適な機器をレンタル手配するようにしています。
もし現在、ライブ配信を検討中の人で自分でやるのは大変という場合は僕の会社「フルハウス」に問い合わせください。
TV番組と同等の映像と音質のクォリティ
映像と音声のプランはざっくりとした図ですが次の様に行いました。
プロのカメラマンと映像スイッチャー
映像については5台のカメラをプランしました。
最終的には現場の楽器の配置が確定した後に予備カメラを増設して7個のカメラを設置しました。
実際に楽器を配置してみると、予定と変わる部分や映像的にココは押さえておきたいと感じる部分が出てくるものです。
臨場感を伝えるには映像の動きが重要
7台のカメラのうち2台はプロカメラマンを配置して状況に応じて適切にパンやズームをします。
映像を適切に動かせるか動画で配信番組のクォリティが格段に差がつきます。
マニュアルでピントを合わせたり適切な露出やホワイトバランスを確保するなど、映像品質を確保するためにはプロカメラマンの技術が必要です。
3台の業務用カメラと3台のミラーレスカメラ
メインのカメラには業務用の大型カメラを使用します。
業務用カメラは映像品質が優れているというよりかは、安定性と操作性に優れています。
適切なパンやズームをするためには操作性はとても重要です。
そして、舞台上に仕込むサブカメラにはミラーレスカメラを設置しました。
小型で映像品質の高いミラーレスカメラは舞台上の仕込みカメラにはぴったりです。
昨年に購入したSONYの「α7s III」を2台と、「α6400」などを設置しました。
SONY「α7s III」を導入した過去記事はコチラ
音楽を理解したスイッチャーマンを配置
そして映像を切り替えるライブ配信の要となる映像スイッチャーを1名。
カメラマンとの阿吽の呼吸での映像切替や音楽を理解した操作が重要です。
スイッチングミキサーには、RolandのV-8HDを持ち込みました。
Roland 「V-8HD」を導入した過去記事はコチラ
昨年はビデオスイッチャーといえば BlackMagicDesign のATEM mini シリーズが売れに売れた年だっと思います。
ウチも2台購入しました。
使ってはいませんが、安定性や操作性、最終的な配信番組のクォリティは圧倒的にRoland「V-8HD」の方が上です。
ビデオスイッチャーを色々と試してみた過去記事
音は通常のクラシックコンサート録音と同じ手法で
配信にのせる音楽のサウンドは、専門家として妥協できないところです。
日常で行っているクラシックのオーケストラコンサートの録音などと同等のマイクやシステムを持ち込みました。
違いは「記録」ではなく「ライブ配信」ですので、リアルタイムな放送用ミキシングをプロのミキサーが行うことです。
音楽的なバランスだけでなく、配信の音質や音量レベルなども適切な基準で送出していきます。
クラシック・コンサートの録音については、多くの過去記事を書いてきました。
映像も音声も元データは個別に収録
今回はライブ配信が主業務でした。
ですが、通常通りにカメラのデータやマイクの音声は各カメラやマイク毎に個別にオリジナルデータを記録しています。
後日に編集して、
- 映像作品化したい
- 音源作品化したい
という場合にも対応できるようにするためです。
ライブ配信と違い、しっかりと作り込むことによって、もう1段上のクォリティにて動画化やDVD/BD化、CD化などをすることも出来ます。
最も重要な配信管理
ライブ配信において技術的に最も重要なのが配信管理業務です。
どれだけ高品位な演奏や映像、サウンドを作り上げたとしても配信管理が適切でなければ質の高い映像や音声は提供できません。
それどころか配信が途中で止まることさえ起こりえます。
適切に通信環境を整え監視します。
さらにクライアントのチャンネルの設定のお手伝いやHP、SNSなどを使った告知などのお手伝いも行いました。
高品位なライブ配信は、ほとんど場所で実現可能
大まかではありますが、インターネット回線のないホールでオーケストラなどのライブ配信を行う方法を記してみました。
1つ1つ正しく対応していけば誰でも実現できると思います。
ですが、もし早く確実に実現したい、もしくは誰かに技術的な事などは任せたいということであれば、いつでもご相談ください。
最後に、僕の会社フルハウスのHPリンクをもう一度貼っておきます。
では、また。
ここ1年で数十回のライブ配信業務を行ってきましたので、時間を見つけてちょいちょい書いていこうかと考えています。