岩崎将史です。
これまで音楽出版社についての記事を書いてきましたが、それの補足記事です。
主に近代・現代の音楽出版社の役割と主な国内出版社などを紹介します。
音楽出版社の登場と役割の変化
音楽出版社が登場したのはルネサンス期。
1500年代の中世ヨーロッパです。
楽譜の印刷とレンタルを生業として誕生し、近世にかけてレンタルだけでなく販売までを行うようになりました。
こうした業態の変化には活版印刷技術の発展が、大きく影響しています。
その辺りは下記記事で解説しています。
そして近代、1900年代に入ると音楽コンテンツのビジネスモデルは楽譜の販売から、録音物の販売へとシフトしていきます。
その過程の中で、楽曲のビジネス的な権利者の重要な価値は形のある「楽譜」から形のない「著作権」へと考え方をシフトしていきました。
以降、音楽出版社というと楽曲の著作権管理を行う組織を主に指すようになります。
同時に生来の楽譜を取り扱う音楽出版社も混在しており、音楽ビジネス業界の人同士でも活動する分野やフィールドが違うと、互いに誤認したまま話が進むことがあり、少々厄介なワードとも言えます。
楽譜を主業とした音楽出版社については、先に取り上げた記事で十分に解説してきましたので、今回は音楽著作物を取り扱う種類の音楽出版社について、少し解説していきます。
近代における音楽出版社の役割
近代の音楽出版社の大まかな位置づけについては、下記記事で解説しています。
その内容を踏まえた上で、もう少しだけ詳しく解説していくことにします。
音楽作品をビジネス化する
音楽出版社の世の中に存在する大きな意義は「作品を世に広めるための活動をする」という事にその本質があります。
もちろん事業者ですから営利が優先です。
楽曲を商材として営利を得るためには、作品をより世間に広く認知してもらい、何かしらの手段を通して利用して貰わなければなりません。
著作者から作品を預かり、宣伝し利用を促進し、著作権使用料の収益性を上げるというのが大きな役割になります。
そのための著作権譲渡契約
楽曲の利用を促進し収益を上げるために、音楽出版社は著作者から著作権を譲渡してもらうのが一般的です。
- 譲渡にあったっては著作権譲渡契約と呼ばれる契約書が取り交わされる。
- 著作者は出版社から収益の1/2以上を享受できることがCISACの決められている。
などは、先の記事で解説してきました。
音楽出版社は著作権を著作者から譲渡されることによって、安心して宣伝、営業活動を行い、その作品の普及に務めることができるようになります。
著作権使用料の分配方法
著作権使用料の分配方法や金額についてはコチラの記事で解説しています。
音楽出版社の営業の実態は
上記のように説明をすると音楽出版社は作品が売れるように、様々な活動をしてくれると考えてしまうかもしれません。
その考えは少し合っていて、ほとんど間違っていると言えます。
販売先の獲得が先
「作品を売る」という活動がメインではなく「作品が売れる状況」を作り、その作品を作ってもらったり募ったりするというのが実際です。
これはどんなビジネスにも言えることですが、
- 商品を作る
- 顧客を獲得する
上記の2つのどちらが重要かというと後者です。
顧客さえいれば、つまりニーズがあれば、商品は確実に販売できます。
前者から始めた例で成功した例ももちろんありますが、ビジネスとして軌道に乗せる確実性からいうと、圧倒的に後者であることは、経営を学んでいる人には定説です。
広まる活動のできる作品を募る
音楽出版社はそれぞれ様々な音楽の販売先、つまり利用先のルートを持っていて、そのルート先から求められる楽曲を作家さんから募る、というのが最も一般的なスタイルです。
いわゆるコンペと呼ばえるものです。
例えば、アイドルやアニメの主題歌などは、先に「こういった作品をリリースする」という事が決まっており、そこにコネクトしている出版社に「音楽が欲しいんだけど」という形で話がいって、出版社と繋がっている作家さんやエージェンシーに話が来るという流れです。
ですのでメジャーなルートでの作詞家、作曲家を志すのであれば、こうした出版社やエージェンシーと繋がって置くことが重要です。
具体的な利用先
こうして世に出ることになる作品の収益力を最大限に高めるために、音楽出版社は様々な活動をおこなします。
できるだけ多くの人に楽曲を利用してもらうためにですが、具体的にはどんな事があるのでしょうか?
少し例を上げてみると、
- レコード作品での利用(CD・音楽ストリーミングなど)
- 楽譜化
- カラオケでの利用
- 放送などの番組での利用
- イベントやライブでの利用
- 他のアーティストや他の企画などでカバー利用される
他にも昔でいうと着メロでダウンロードされるなど、時代時代に合わせて利用先や利用のスタイルは変わっていきます。
実際にどのように著作権利用料が出版社の売上として入ってくるのでしょうか?
CDについての著作権利用についてはコチラの記事で解説していますので、合わせてご参考ください。
代表的な音楽出版社
国内の著作権管理を主業とする音楽出版社は無数にあります。
僕が仕事で良く接する出版社を、少しだけ例として上げておきます。
単独の出版社としては、
- ヤマハ・ミュージックエンタテインメントホールディングス(旧ヤマハミュージックパブリッシング)
などがありますが、殆どの場合は単独ではなく音楽ソフトメーカーや音楽プロダクション、放送局などの系列の出版社が多いです。
例えば、
- ソニー・ミュージック・パブリッシング
- ユニバーサル・ミュージック・パブリッシング
- ビクターミュージックアーツ
などのレコード会社系列の出版社。
- ジャニーズ出版
- サンミュージック出版
- スターダスト音楽出版
といった事務所系列の出版社などもあります。
他にも、
- NHK出版
テレビ朝日ミュージック - 日音 (TBS系)
- フジパシフィックミュージック
- テレビ東京ミュージック
といった放送局系列の音楽出版があります。
日音は邦楽曲5万曲以上、洋楽曲100万曲以上の著作権を管理していて洋楽曲のカバー作品などを扱うときには最も多く登場する印象を持っている音楽出版です。
放送局では僕の住む東海エリアでも「CBCクリエイション」など各局が出版社を持っています。
他にも映画会社や広告代理店、カラオケメーカーなど音楽に絡む様々な会社が系列会社として出版社を持っています。
系列に出版社を持っている理由
先に書いたように「商品を売るには先にアウトプットが大事」という事実があります。
- CDリリースする(レコード会社)
- 興行で使う(事務所)
- 番組で使う(放送局)
などが先に決まっていて、確実に世に認知され2次利用などが見込めるのであれば、著作者より著作権を譲渡され自社系列で管理運用した方が得です。
また他社が管理していると運用するにあたり許諾を得る必要があるなど、実務上にも負担が掛かります。
よって各メーカーや放送局などは自社の子会社として出版社を立ち上げ、主に利用する楽曲はその出版社で管理するようにしています。
なぜ本体ではなく列子会社で出版社をわざわざ立ち上げるのかというと、理由があるのですがその辺りはまた別な機会に解説しようと思います。
現代に起こっている変化
音楽出版社の収益力というと、近年はかなり厳しい状態が続いていると言われています。
最大の理由はなんと言ってもCDなどのレコード作品のパッケージ販売が終了したことです。
終了というと言い過ぎですが、20年前に比べれば事実上、終了したビジネスモデルと言えると思います。
その代わり、音楽ストリーミングがあるじゃないか
という意見もあるかと思いますが、音楽ストリーミングは当初から僕は周囲に解説していますが、音楽コンテンツのビジネス的発展には1ミリも貢献しません。
何故かは明確な理由がありますが、話が大きくそれるので別の機会に書きたいと思います。
取り急ぎ、こちらの記事がデータとしてとても分かりやすいと思いますので紹介しておきます。
音楽ソフトの部分ですので出版社よりもレコード会社の影響が甚大な分社ではあります。
ただしCDだけでなく、映像作品での音楽利用などもTV放送やDVD・BlueRay-Diskなどから、YouTubeやサブスクリプションによる動画配信サービスにシフトし、音楽出版社の収益力の限界みえてしまう状況なのではないかと推察しています。
さらに今年はコロナの影響もあり、カラオケがクラスター源の1つとして大きく取り上げられてしまいました。
イベントやライブも激減しています。
一方、ライブストリーミング配信などの増加など、光の部分もあるので、その辺りの全体総量がどの様に変化していくのか?
今年度末の各社の収益状況というのはとても興味深い物があります。
最後に少し暗い話になってしまいましたが、音楽出版社の役割について少し理解をすることにお役にたてれば幸いです。
ではまた。
僕は若い頃は少々ひねくれていたようで、こうしたコンペのルートには一切関わる気がありませんでした。
自分で直接仕事を作るという事が楽しくて、直接企業クライアントなどを獲得する感じでしたので、作曲家としては全くの異端な動きです。
ただしそれでもスタジオ持ちになれて、今でも楽曲作りが売上のメインですので、それはそれで間違ってはいなかったとは思いますが、これから作曲での生業を目指す人の参考には、僕は全くならないと思います。