岩崎将史です。
一般の人と音楽についての話をするときに、言葉の認識が違っていて、上手く伝わらなかったり誤解をされることが良くあります。
ポピュラー・ミュージックという言葉もその1つだと実感する機会が多いです。
例えばこんな事がたまに…
ポピュラー以外の音楽も何か聴いたりします?
え?僕はロック・ミュージシャンだよ。
ポップスじゃないんだけど…
え?!…
僕はそっと話題を変えます。
音楽の区分は大きく分けて3つ
この場合、ポピュラー・ミュージックというのはポップスという意味ではありません。
ポップス、ロック、ジャズ、R&B、ファンク、ヒップホップ、クロスオーバーなどのジャンルを総合してポピュラー・ミュージックと呼んでいます。
日本の歌謡曲もポピュラー・ミュージックの1つです。
物凄く広義な意味で音楽のジャンルを区切ると4つに分類されます。
ざっくりとこんな認識です。
- 古来よりの地域毎の伝統的な音楽
- クラシック音楽
- ポピュラー音楽
クラシック音楽も伝統的な音楽の中の1つだと思うかもしれませんが、音楽の発展の歴史や因果関係からこの3つに区分されています。
3つの言葉の使われ方を解説します。
クラシック音楽と伝統的な音楽の違い
まずはクラシック音楽と各地域の伝統的な音楽の違いについて。
ともに中世・近世で発展した物が多いです。
もちろん古代から音楽はありましたが、今日伝わっている音楽は中世以降での作曲された物が多いです。
それならクラシックも伝統的な音楽に入れるべきでは?
と思う人もいるかと思います。
歴史年代的な区分だけであればそういう解釈もありです。
が、年代的区分ではなく、文化としての系統として分けられる言葉として使われています。
現代の主流であるポピュラー・ミュージックは音楽の構造や理論的なベースが、クラシック音楽からの系譜で発展していますので、伝統的な音楽とは切り離して語られることが一般的です。
クラシック音楽=中世・近世のヨーロッパの特定の音楽
クラシックは言葉を直訳すれば古典的という意味です。
が、音楽を語るときにはクラシックは古典という意味ではないです。
クラシックという単語を使ったと区分けを理解するためのただの名前です。
一般的に言われるクラシック音楽というのは、欧州の中世から近世にかけての音楽を指すことが多いです。
古代は含まない
古代ヨーロッパの音楽は、この場合のクラシック音楽には含まれません。
当たり前ながら古代より世界中に音楽はありました。
ただし口伝以外の記録に残る形、つまり楽譜や文書として残っているものがないのです。
現在の音楽理論を育んだ音楽かどうか
ポピュラー音楽にも引き継がれている、音律、音階、和声、記譜法などの音楽理論が繋がっている同時代の音楽をクラシック音楽と呼んでいます。
現在の音楽の主流として使われている各種音階や和音などは中世から近世にかけて成立してきましたので、クラシック音楽というカテゴリーには含まれない解釈が主流です。
トラディショナル音楽として扱う
当然ながら、それらの音楽とクラシック音楽はまったく繋がりがないわけではありません。
メロディのモチーフとしてなど、後世のクラシック音楽に影響は与えてはいます。
その場合はクラシック音楽ではなく、伝統的な音楽というカテゴリーになります。
中世と言っても終盤
そして中世を含むと言っても大航海時代以降の終盤以降の音楽を指すことが一般的です。
中世は全般的にグレゴリオ聖歌を始めとするキリスト教系の教会の中で、音楽が発展してきました。
その意味ではクラシック音楽を勉強する過程で取り上げられます。
グレゴリオ聖歌についてはこちらの記事で解説しています。
ただし、多くの人はクラシック音楽と言うときにはバロック音楽以降を指していることがほとんどです。
語るテーマによって変動しますすし、歴史区分の解釈も幅はあります。
あまり厳密ではなくゆるく大まかに捉えた方が理解しやすいです。
現代でも産み出されるクラシック音楽
ややこしいですが、現代の作品でもクラシック音楽と呼ぶ場合があります。
クラシック音楽の慣習や構造、構成などを踏襲した音楽作品に対して呼ばれます。
現代音楽というワード
クラシック音楽の世界では古典的音楽に対して、前衛的な音楽を現代音楽と言います。
古典的な流れを踏まえた上で、敢えて壊したり逸脱したり新たな理論を構築したり。
これらも広い意味でクラシック音楽の範疇として解釈されています。
現代音楽に全く接点のない人(むしろそのような人たちのほうが多い)には、クラシック音楽ではなくポピュラー音楽という意味で受け取られることもあります。
伝統的な音楽とは
それに対し伝統的な音楽とは、クラシック音楽に含まれない古くから伝わる世界中の音楽のことを指します。
ただし民謡などは1900年代以降の近代、現代で作成、発表されている物も含む場合もあります。
そのようなジャンルはない
伝統音楽、トラディショナル・ミュージックというジャンルがあるわけではありません。
世界中でその地域ごとに受け継がれている音楽があり、通常はそれぞれの各地域の音楽の名前で語られる事が通常です。
クラシック音楽とポピュラー音楽に対し、西洋の音楽史や音楽理論からは独立した形で生まれた音楽をあえて全体的に説明するときに使う言葉です。
主に口伝
クラシック音楽との大きな違いは、基本的に口伝だったことです。
そして系統建てた科学的考察に基づく積み上げの記録が残っていない事がほとんどです。
これは音楽の優劣を語るものではなく違いです。
ハーモニーがない
伝統音楽にはハーモニーの概念が基本的にはありません。
そこがクラシック音楽との大きな違いです。
全て単旋律という意味ではない
ハーモニーがないから全て単旋律の音楽だったのかというと、そういう訳ではありません。
笙などのように同時に複数のピッチを鳴らす楽器もあります。
この様な時に語られるハーモニーとは、音楽の基礎的構造としてトライアドコードと呼ばれる3和音以上の和声とその機能性の有無を指します。
こちらも音楽の優劣を語る物ではありません。
新しい伝統的音楽はハーモニーがある
近世以降で体系化された音楽にはハーモニーがあることが多いです。
これはクラシック音楽の音楽理論などのエッセンスが伝統的音楽に影響を与え、アレンジされたり新たに産み出されたりしたからです。
ポピュラー・ミュージックとは
クラシック音楽と伝統的な音楽との認識を理解すると、ポピュラー・ミュージックという概念が理解しやすくなります。
言葉をそのまま直訳すると人気のある音楽となります。
巷で人気のある曲、広く大衆から訴求力のある音楽という意味ですが、
じゃあ、クラシックの曲でも人気がある曲ならポピュラー・ミュージック??
かというと、そうではありません。
大衆的か芸術的かではない
言葉の定義でいうと、
ポピュラー音楽 ⇔ 芸術作品としての音楽
という分け方になるのですが、制作者自身はほとんどの場合において、ポピュラー・ミュージックてもアートとして魂を込めて情熱を傾けて作っていることが常です。
ポピュラー音楽かどうかは、製作者の作品に対する情熱やマインドではなく、音楽の運用方法、ビジネス的な環境の違いを指して区分されます。
ポピュラー≒クラシック&トラディショナル以外
現在ではロック、ジャズ、R&B、レゲエ、ダンス・ミュージック、ホッピホップ、歌謡曲、クロスオーバーなどあらゆる音楽を含んでいます。
日本では歌謡曲と言う言葉もありますが、これもポピュラー・ミュージックです。
簡単に言うと、現在ではクラシックや伝統的な音楽以外の音楽は全てポピュラー・ミュージックと理解して問題ないです。
ポピュラー・ミュージックの成り立ち
この区分は、ポピュラー・ミュージックの誕生と発展の歴史を理解するとスッキリします。
民主主義と資本主義経済が新たな音楽シーンを作った
1800年代以降、政治が市民手動になり資本主義経済が発展していくと、ビジネスとして大衆に訴え市場を作っていく音楽が一般的になります。
そこでそれまでの音楽と区別するためにポピュラー・ミュージックと呼ばれるようになりました。
- アート、芸術作品としての音楽 ≒ クラシック・ミュージック
- 伝統的な地域の音楽 ≒ それぞれの呼称(トラディショナル・ミュージック)
- 大衆に訴えるビジネスとしての音楽 ≒ ポピュラー・ミュージック
音楽と経済がヨーロッパからアメリカへ
近世のアメリカ大陸の発見、植民地化、独立を経る歴史の中で、近代以降はアメリカが経済的にプレゼンスを発揮するようになります。
世界経済への影響力がヨーロッパからアメリカへ移ることによって、今日でいうポピュラー・ミュージックが産まれます。
ヨーロッパでの音楽の技術的な発展がある程度の過渡期を迎え、新たなテクノロジーと組合わさりより商業的な成功を実現したのがアメリカのポピュラー音楽シーンでした。
ティン・パン・アレーで産まれたポピュラー・ミュージック
具体的には1880年代から1920年頃かけてニューヨークのティン・パン・アレーという通りで、ポピュラー・ミュージックというカテゴリーが産まれました。
そこには多くの音楽出版社が立ち並び、マーケティング活動を行いながら作曲家に音楽に具体的な注文を出していきます。
こうしたティン・パン・アレーから生み出される音楽作品達を、当初はポピュラー・ミュージックと呼んでいました。
そのビジネスモデルがアメリカ中、そして世界中に広がる過程の中で、全体を称してポピュラー・ミュージックと呼ばれるようになりました。
技術の進歩で誕生
ポピュラー音楽は、主に4つの技術を生かして発展していきました。
- レコードして録音作品として販売される
- アメリカでPAが開発され音楽に応用される
- ラジオ放送で音楽が流れレコードが大きくプロモーションされる
- 映画が発明、普及されて音楽がより大衆向けに利用される
レコードの登場
アメリカで発明されたレコードは、それまでの楽譜の出版ではなく、レコードという録音された実の音で聴ける形で音楽コンテンツを届けられるようになりました。
これにより、楽譜が読めて楽器の演奏ができる市民層ではなく、楽器の素養がない世界中の人達もコンテンツを直接楽しめるようになりました。
そして、それにウケる音楽を音楽出版社は作り出すようになっていきます。
PAの登場
アメリカで発明されたPAが、音楽公演のでも利用されるようになりました。
これによっていっきに歌、ボーカルの商業的利用価値が増大しました。
それまでは、正しくトレーニングを積んで習得したクラシカルな声楽家でないと、会場中に歌声を届けることはできませんでした。
PAの登場により、普段の会話のようなニュアンスや囁くように唄った声も届けることができるようになり、音楽の作り方が大きく変わっていきました。
ラジオの登場
1920年代にアメリカで本格的にラジオ放送が始まります。
レコードを購入することができない層やそれまで知る機会のなかった層にも、新人アーティストや作品を知らせる事ができるようになりました。
当初はレコード産業を食うとも危険視されましたが結果は、レコードのプロモーションに絶大な効果を発揮し、1980年代までレコード産業の最も重要なプロモーション・メディアとして機能しました。
映画の登場
アメリカで1900年代に映画産業が興り始めます。
1910年代にハリウッドに多くの映画会社が集まりました。
そして映画に音楽が付けられるようになると、ミュージカル映画が大ヒットをするようになりました。
初期はミュージカルとジャズ
このようなテクノロジーの発展と普及があるなかで、産まれてきたポピュラー・ミュージック。
初期としては、ミュージカルとジャズが中心でした。
オペラをベースにショービジネスとしてより洗練
1980年代後半に、オペラをベースとしてより音楽出版社と興行主は、より大衆にうけるショービジネスに変化をさせていきました。
それがミュージカルです。
当時は主に白人達のエンターテイメントとして発展していきました。
ラグタイムから発展
同じ頃、アメリカの黒人たちの間ではラグタイムと呼ばれる音楽が流行ります。
アフリカの伝統的な音楽のリズムの要素を取り入れ、ヨーロッパの楽器、音楽理論を取り入れダンス・ミュージックとして発展。
1900年代に入るとニューオリンズの黒人たちがブラスバンドで演奏されスウィングの要素が脚光を浴びます。
ダンス・ホールなどを中心として、商業的に成功をさせる音楽が発展していきました。
各地域の音楽に応用される
これらのビジネスモデルが世界中に伝搬し、それぞれの地域の伝統的な音楽と組み合わさってポピュラー・・ミュージックは更に発展し裾野を広げていきます。
例としては、
- フランス…シャンソン
- イタリア…カンツォーネ
- スペイン…フラメンコ
それぞれは元々各地域にあったものでクラシックの1部とも解釈されいますが、ミュージカルやジャズの商業的な成功のエッセンスを取り入れ、歌手が脚光を浴び興行を成功させるという流れができます。
音楽の発展していく歴史上の意味合いの違い
こんな感じで、大まかにまとめてみました。
掘り下げるとがっつり音楽史の話になってしまいます。
0か1のどちらかにスパッと別れるものではなく、それぞれの意味合いからよりどちらよりかという風に捉えると分かりやすいかと思います。
言葉の解釈が違うと色々な問題に繋がります。
音楽の世界を仕事にしていく若い人は、理解を深めることで様々なジャンルやフィールドでの仕事やコミニュケーションにプラスになると思います。
皆さんに幸あれということで、では、また。