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演奏会場の正しい選び方|音楽の歴史から知る

演奏会場の正しい選び方|音楽の歴史から知る音楽の学び
この記事は約13分で読めます。

岩崎将史まさふみです。

日々、リアルなコンサートの現場もありますが、コロナ禍でライブ配信のオーダーも増えています。

2021年は、僕の会社「フルハウス」も1〜3月の第1クォーターだけで30日以上はライブ配信関連で稼働していました。

そん中で会場となるホールの選び方について疑問を感じる事が時々あります。

音楽性にマッチしない会場を選定し、余分な費用を対策コストとして無駄にしている例をそれなりに見かけるようになってきました。

例えばですが、

クライアント
クライアント

コンサートホールでバンドのコンサートとライブ配信を予定しているのですが…

という問い合わせがあります。

専門家であれば、その選択がベストで無いことは分かります。

ただし企画する一企業のイベント担当者などが分かっていない場合が多々あります。

できるだけ良い会場を選んで頂き最低限の費用で最大限の効果を上げて頂けるよう、できるだけ分かりやすくマトメつつ解説します。

各音楽が成立した背景を知る

適切な会場選びののためには、それぞれの音楽がどんな所で産まれて発展したのかを知るのが最適です。

とはいえ難しいことは何もありません。

大まかにデフォルメしていますが図にしてみました。

この歴史にの流れに沿って、ざっくり解説していきます。

近世欧州で育まれたクラシック音楽

まずはクラシック音楽から。

現在のほとんどの音楽は西洋クラシック音楽の要素を取り入れています。

ルネッサンスを経て宮廷室内楽へ

クラシック音楽の原点は中世の教会音楽にあると言われています。

そしてルネッサンスや大航海時代を経ながら近世の幕開けとともに音楽のメインストリームが教会から宮廷へと場所を移してきます。

それらの流れについてはコチラの記事で解説しています。

そこでは主に「弦楽合奏」や「木管合奏」などの小編成のアンサンブルが中心でした。

そのために室内楽用のホールは宮廷の広間など彷彿とさせる空間になっています。

サントリーホール|ブルーローズ(小ホール)

上写真を見て頂くと分かるかと思いますが、壁面が音を拡散して反射させる形状になっています。

クラシック音楽はこうした空間で良く聞こえるように楽器や作曲技法が育まれてきた音楽です。

室内楽アンサンブルは適度に音を拡散、反射する巨大過ぎない空間を選定しましょう。

反響のない空間の選定は避ける

響きの得られない、いわゆる「デッドな空間」で室内楽アンサンブルを企画されている場合があります。

音を拡声させるために電気音響(PA)を入れたり、奏者用にモニタースピーカーを入れたりといった状況も見聞きします。

どうしてもその会場でなければならない場合もありますが、掛ける費用に見合った効果が得られるものではないです。

クラシック音楽がメインの演目であるならば、そういった場所の選定は避けましょう。

後輩フルート奏者がイベンターから「プロは自分の楽器用のマイクは何も言われなくても持ってくる物だ」と怒られた経験があるそうです。

行ってみたらPAありきの会場だったと。
クラシック奏者でクラシックの曲を演奏してくれというオーダーだったんですけどね。

会場の選定やPAは舞台製作者の範疇で演奏者は関係ないはずなんですけどね。

ですが、この手の業界人の話は定期的に耳にします。

金管楽器が加わりオーケストラへ

近世終盤にかけてアンサンブルは少しづつ大規模になりオーケストラへと発展していきます。

18世紀後半は弦楽が木管が主流でしたが、19世紀にヴァルブが開発され現在のトランペット、トロンボーンなどの金管楽器が加わり、打楽器なども組み込まれていきます。

金管楽器や打楽器の多くは元々は軍楽隊を整備するなかで発展していきました。

その辺りもコチラの記事で書いています。

大規模なオーケストラになると宮廷では狭すぎます。

そして欧州では経済的政治的イニシアチブが王侯貴族から市民へ徐々に移っていく時代でした。

そのような背景の中、より多くの市民も楽しめるよう後にコンサートホールと分類される会場が誕生していきます。

サントリーホール|大ホール

サントリーホールや東京芸術劇場、愛知県芸樹劇場などのコンサートホールはオープンステージと呼ばれホールを囲むプロセニアム・アーチや反射板がありません。

愛知県芸術劇場コンサートホール

反射板あのるホールは多目的ホールで、オーケストラ向けの完璧に設計チューニングされているわけではありません。

可能であればオープンステージ型のコンサートホールを選ぶのが良いです。

響きをたっぷりの建築音響設計

こうしたクラシック音楽向けのホールは「コンサートホール」と呼ばれ「電気音響 (PA) を使わない生演奏」の為に設計されています。

過去記事で解説しています。

そのためバンドのコンサートなどPAを前提とした音楽の公演には向きません。

タイトなリズムや明確な音像が求められる一般的なバンドサウンドに合わない事が多いからです。

常に天然のリバーブが欲しく、基本は生音で少しだけPAで補助というスタイルであれば、その限りではありませんが。

コンサートホールで困るパターン

コンサートホールにブッキングされた仕事で困った事例を2つほど紹介しておきます。

残響の無い明瞭な音を求められる

とある歌手
とある歌手

この曲はリバーブなしに出来ますか?

岩崎
岩崎

使ってないっすモ〜

主催者
主催者

このホール響きすぎだよね〜。
分かってないな〜。

岩崎
岩崎

……

みたいな経験がマジであります。

もちろん様々なごまかし系の技はありますが、マイナス要素もありますし、そもそも余分な手間と費用を掛けるなら、適切な会場を選んで、そのコストを別に使った方が全員が幸せになると思うのです。

そうした演目では、ライブハウスや多目的ホールなど電気音響を想定された建築の会場が良いです。

コンサートホールにポピュラー系アーティストをブッキング

とあるクラシックコンサート向けの会場から、打ち合わせ時に「うちはこういうホールなので基本生声だけでやって頂いてます」という話になりアーティストサイドから相談を受けたこともあります。

そういった音楽に普段触れていない人だと「何故PAが必要なのか?」が理解できていなかったようで、後日、僕も打合せに参加し何故必要なのかを過去動画を見せて解説、ホール側にリスクが無いことを説明して認めてもらったという経験があります。

オペラをやるには専用ホールが必要

時代が近世から近代に向かう中で当時の貴族や多くの市民に需要があったのがオペラです。

オペラ誕生と発展の経緯はこちら

音楽だけよりもストーリーや演出のあるオペラがより好まれたのかもしれません。

オペラは通常の音楽コンサートとは違い特殊な舞台機構が必要です。

代表的な物としては、

  • プロセニアム・アーチ
  • 舞台セット
  • オーケストラピット
  • ボックス席

などです。

オペラハウスの特徴はこちらにて

これらの施設は演奏だけの音楽コンサートにはサウンド的に弊害になる物ばかりです。

そのためオペラは専用のホールであるオペラハウスが作られていくようになりました。

オペラ公演にはオペラハウスを選定するのが望ましいです。

新国立劇場が有名ですが、日本にはオペラハウスはほとんどありません

そのためコンサートホールや多目的ホールで対応可能なホールを選定し公演される事が多いです。

客席を沈めてオーケストラピットを作れる多目的ホールがあります。
ただしピット内の建築音響特性まで追い込めていない場合が多く、専用オペラハウスとは差がでるとも言われています。

経済文化が北米へ

1900年前後(20世紀)になると、政治経済のプレゼンスは北米へ移ります。

ミュージカルとジャズの誕生

当初はオペラなど欧州貴族や上流市民文化が中心でしたがやがて、一般的な庶民も楽しめる、

  • ミュージカル
  • ジャズ

が人気を博し、それまでの音楽を「クラシック音楽」と、新しい音楽を「ポピュラー音楽」と呼ばれるようになっていきました。

その辺りはココの記事で

ほぼ同時期には、

  • 映画
  • ラジオ
  • レコード
  • PA

が登場し、これらの音楽とマッチして庶民に広がっていきます。

PAはミュージカルやジャズのボーカルに使われるようになり、それまでの音楽を大きく変えました。

常に体中を響かせて大きな声を出さなくても聴衆に歌声が届けられるようになったのです。

これによりポピュラー音楽は他の分野の歌唱スタイルと大きく変わりました。

ミュージカル劇場

ミュージカル劇場はオペラハウスを踏襲しながらもそうした最新の音響や演出に対応したホールになっていきます。

そのため、オペラ公演が可能かつ電気音響(PA)が導入できるホールが望ましいです。

コンサートホールなどのオープンステージタイプを選定してしまうと、プロセニアム・アーチや幕が無いため舞台セットや転換などの演出で著しい制約が出来てしまいます。

ジャズクラブ

ジャズクラブは、よりフランクにお酒や食事なども楽しめる場所として成立していきました。

そうしたジャズ向けのライブハウスは巷に数多くあります。

大きな会場を選定する必要がある場合は、電気音響(PA)などが入れやし多目的ホールなどが望ましいです。

コンサートホールなどは音の残響や広がりが多いので避けた方が良いです。

これまでとは真逆の設計思想であるライブハウス

20世紀後半になると、エレキギターなどの電気的な楽器が登場し、ポピュラー音楽もロカビリー、ロックへと進化していきます。

そしてポピュラー音楽は全ての楽器音を電気音響(PA)で拡声するが前提として作られるようになりました。

それらに対応する設備を備えた会場として「ライブハウス」が成立発展していきます。

生楽器を使わない場合は、ホールは響きが少ないことが重要になってきます。

必要以上に響きがあると、電気で増幅された音と部屋の響きとが重なって、聴き取りにくいサウンドになってしまうからです。

そのため極力響きを押さえる、これまでの音楽ホールとは全く真逆の設計思想となっていきました。

ライブハウス Zepp名古屋

ポップス、ロックなどのポピュラー系のバンド演奏にはライブハウス、多目的ホールなどが適しています

コンサートホールなどの響きが多いホールはPA音楽向きではありません。

過去にZepp名古屋でのイベントで弦楽アンサンブルのブッキングを依頼されたことがあります。

会場に行くと分かりますが、壁が吸音材で処理されていて余分な音の反射を押さえるように設計されています。

そのような会場でも演奏自体はできますが、本来の音や演奏の楽しみ方はできません。

独自の進化を遂げた日本の多目的ホール

最後に日本ならでは特徴と流れをみていきます。

日本は独自の進化を遂げた要素が多々あるので、実に多くの種類のホールがあります。

歌舞伎小屋と能楽堂

名古屋能楽堂 (facebook)

伝統的な会場としては、

  • 歌舞伎小屋
  • 能楽堂

の2つが現代でも建設されている会場の代表です。

歌舞伎小屋は江戸時代に誕生しました。

能楽は、中世では申楽、近世では猿楽と呼ばれ主に、神社などに舞台が設けられ行われていました。

明治時代に能楽と定められます。

能楽や歌舞伎についてはコチラの記事でも触れています。

講堂

明治時代には講堂が各地に整備されていきました。

講堂というのは元々はお寺で教えや学びを伝える場所を指していました。

明治時代に全国に教育施設を整備する中で、新たな講堂が作られ形式が定まっていきました。

小中学校では体育館機能と合わせて、地域では講演・演説用途に「公会堂」として整備されていきました。

横浜市緑公会堂(講堂)

そのため本質的には「音楽公演」に最適な建築音響設計にはなっていません。

ただし他の会場が空いていないなどの理由から、多くの音楽公演が行われています。

多目的ホール

多目的ホールのプロセニアム・アーチ
名古屋市 中川文化小劇場 (多目的ホール) のプロセニアム

20世紀後半にはクラシック音楽公演が出来る場所をがもっと必要だという声が高まると同時に、

  • 演劇もしたい
  • オペラもしたい
  • ミュージカルもしたい
  • バレエ公演もしたい
  • 日本の芸能もみたい
  • 講演会
  • バンドのライブもしたい

など市民の多くの要望を叶える施設が求められました。

そのような中で「多目的ホール」という分類のホールが進化していきます。

  • クラシック音楽向けには吊り反響板で対応
  • オペラ・ミュージカル・バレエ用にプロセニアムアーチを設置
  • バレエ公演用に緞帳を複数化。
  • 多幕化で演劇にも対応
  • 迫りや廻り舞台で日本の芸能にも対応
  • 残響を押さえて講演やバンド講演などにも対応

などのあらゆる演目に対応できる工夫がなされています。

多目的ホールに必須の幕について

何でもできる≒中途半端

ただし、この「何でもできる」は曲者で裏を返せば「全てが中途半端。何かが足りない」ということになります。

例えば多目的ホールでクラシック音楽を公演する際には、反響版を使います。

ただしどうしても、プロセニアム・アーチ(的な物)の奥になるため、理想的なサウンドにはなりません。

客席側の反響も拡散よりもある程度押さえられている傾向になっています。

そのために公共ホールは多目的ホールを中心に建設されつつも、様々な演目に特化したホールが作られています。

まとめ

演奏会場を選定する際には、行いたい音楽公演や演目にマッチした会場を選定する必要があります。

それだけで公演がやり易くなり、クォリティが上がります。

適切な会場を選ぶ事は、

  • 演奏者や舞台技術者が抱えるストレスが極端に減る。
  • 演奏のクォリティがあがる。
  • 聴衆も聴きやすく楽しみやすくなる。
  • 余分な対応や準備が減るので大幅にコストを押さえられる。

などのメリットしかありません。

本文中でも書きましたが現実にはそうでないケースの相談や依頼がそれなりにあります。

コンサート・ホールでフルにPAが必要なバンド系のコンサートを企画されていたり、反響板がなく前後は全て幕や吸音材のデッドな会場でクラシックのアンサンブルが企画されていたり、など。

もちろんイベントの前後の趣旨からそうならざる負えない場合はあります。

それは仕方ないですが、知らずに企画して奏者や観客が楽しめないのはもったいないですよね。

ということで、簡単ではありますがマトメて解説してみました。

ではまた。


コロナ第4波の影響で再び僕の会社フルハウスにも再びライブ配信のオーダーが増えてきています。
今年は3月までで40日以上は配信の本番稼働で、全国の会場にスタッフをアサインしてきました。

誰でも有料ライブ配信など出来るようにサポートしてます。
なんとか困難を乗り越えていきましょう。

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