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録音原盤権とは?

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岩崎将史まさふみです。

音楽業界、その中でもレコード業界の中では「録音原盤権」、略して「原盤権」なる言葉が頻繁に登場します。

僕は外部の人と一緒に仕事をしていく上で説明しなければならない機会が割とあります。

そこで記事にして読んで頂ければ理解できるように分かりやすく解説してみます。

著作物と原盤権の違い

録音原盤権とは「著作権と原盤権の違い」

「原盤権」という言葉には「権」が付くので「権利」の事だというのは誰しもが理解できるかと思います。

音楽で「権利」と言うと「著作権」がまずは一般的に認知されている言葉です。

「著作権」は「著作物」に対する権利です。

一方、「原盤権」は「録音原盤」に対する権利です。

ですので正確には「録音原盤権」と呼ばれます。

この2つの違いを理解するためには「著作物」と「録音原盤」についての違いを認識するのが最も手っ取り早くて分かりやすいと思います。

厳密は原盤権は著作権法で「著作隣接権」という扱いになり、その内訳は細かく定義されています。
この記事では主に製作ビジネスに携わる人の参考になるように、法的用語としての説明ではなく、実際の運用てきな話を説明します。

より詳しく知りたい人はこちらも

著作物だけでは聴けない

音楽の場合の「著作物」とは他の記事でも解説してきていますが、

  • 作詞
  • 作曲 (メロディー)

の2点です。

この2点は制作完了した時点では、一般の人が音楽として楽しむ事はできません。

  • 作詞は歌詞カード
  • 作曲(メロディー)は楽譜

という状態になっているのが一般的です。

仮に作曲を楽譜にしなかったとしても「デモ音源」と呼ばれるような簡易な録音物になっている状態というのが一般的です。

商品として市場に通用する状態の作品にするためには、これらの「著作物」を一般の人が楽しんで聴ける状態にする必要があります。

そのために必要が工程がいくつかありますが、代表的な物を上げると、

  1. 編曲 (アレンジ)
  2. 楽譜作成 (ノーテーション)
  3. 演奏・歌唱 (実演)
  4. 録音 (レコーディング)
  5. 編集 (エディティング)
  6. 調整 (ミキシング)
  7. 仕上げ (マスタリグ)

これらの工程を経て、初めて一般の人が聴ける録音物としての大元が完成します。

一般の人が聴ける大元が録音原盤

こうして完成した録音物を「録音原盤」と呼びます。

レコード盤の時代は録音時に「カッティング」といって、最初の1枚のレコード盤を彫ります。

レコード盤は樹脂円盤の溝に音の振動波形情報を直接的に掘って刻み込んで記録させていました。

こうしてできた最初の1枚が「録音原盤」です。

録音原盤とはマスター音源

「マスター原盤」や「マスター音源」などとも呼ばれます。

録音原盤は「世界に1つだけ」だった…

この「録音原盤」は世界で唯一無二の物で、完全に同じものを複数作成することはできません。

昔は全てがアナログ環境で工程を処理していましたので、完全に同じサウンドを表現することは不可能だったからです。

ですので、この最初の1枚である「録音原盤」はとても大切に扱われ、この「録音原盤」を元に工場で大量に複製して、市場に流れるレコードやCDなどの商品となっていました。

世界流通や複製量の観点から、完全なマスター原盤からの複製ではなく、マスター音源の孫だったり曾孫ひまごだったりすることが一般的でした。

昨今ではレコーディングや仕上げ工程の完全なデジタル化により、物理的な意味での「マスター音源」というものは存在しなくなり、管理上の音源バージョンが「マスター音源である」という意味合いで強くなってきています。

録音原盤の権利者は誰?

録音原盤権とは「原盤権の権利者は誰?」

録音原盤が理解できたら「録音原盤権」についての理解は楽勝です。

「録音原盤権」は「録音原盤の権利者」の持つ権利の事を指しますので、

相談者
相談者

録音原盤の権利者って誰?

というのを理解すれば良いのです。

録音原盤制作費を出した人=所有者

録音原盤権の権利者はとてもわかり易くて、ずばり「録音原盤の製作者」です。

「製作者」というのは、「制作費用を捻出して指揮監督した人」という場合が一般的です。

録音原盤の制作には、前項と重複しますが、

  1. 編曲 (アレンジ)
  2. 楽譜作成 (ノーテーション)
  3. 演奏・歌唱 (実演)
  4. 録音 (レコーディング)
  5. 編集 (エディティング)
  6. 調整 (ミキシング)
  7. 仕上げ (マスタリグ)

といった工程が必要ですので、編曲者や演奏家、レコーディングエンジニアやスタジオなどに依頼をし、ギャランティーなどの費用を支払った人が、その録音物の制作者で権利の所有者となります。

メジャー作品の多くはレコード会社がこれらの録音原盤制作費を出していますので、録音原盤(録音物)の所有者、権利者はレコード会社が保有しているのが一般的です。

自主制作などでアーティスト自身が費用を全て捻出している場合はアーティスト自身が録音原盤権を持っていることになります。

制作費を捻出した側が、制作を外部のプロデューサーや制作会社などに依頼する場合などにおいて、契約書などで録音原盤権の所有や割合が定められることもあります。

録音原盤を所有する意味は?

費用を捻出して録音原盤を所有する意味は、もちろんその録音原盤を運用して利益を出すことである場合がほとんどです。

プライベート盤や新人等の場合は、「赤字でも良い。世に出ることが目的」という場合もあります。

逆に言うと、制作した「録音物」を使ってビジネス化する権利は「録音原盤権利者」だけが保有しているとも言えます。

録音原盤費用の回収の方法

録音原盤権とは.004「録音原盤費の回収方法」

それでは「録音原盤を使って利益をあげる」というのはどの様な方法があるのでしょうか?

代表的な例を2つ上げます。

CDやダウンロードなどでの販売

CDやダウンロードなどでの販売の売上は、様々な権利者に配分されます。

代表的な物は著作権ですが、録音原盤権の方が実は金額的な重要度は上です。

著作権使用料は6%

CDの場合でいうと、著作権は国内の場合は販売額の6%と定められています。

JASRACなどの著作権管理団体の基準ですので、個人管理などの楽曲の場合はそれより多い場合もあります。

レコード会社はCDの製造時にJASRACやNEXTONEなどの著作権管理団体に製造枚数に応じて著作権使用料を支払っています。

個人でCDを作成する場合も同様です。

録音原盤権は10%〜20%

一方、録音原盤権のパーセンテージは一般的に10%〜20%の範囲内が通常です。

僕の経験値的には12%程度が標準で、15%だと権利者にはかなり優しいという認識です。

リクープ枚数が大切

録音原盤費用を回収するためにレコード会社やレーベルは「リクープ・ライン」というものを設定します。

リクープとは投資や損失などの回収の事を指します。

リクープ・ラインとは録音原盤費用を回収するまでの売上枚数の事を指します。

例えばアルバムの録音原盤制作に300万円を使ったとします。

1枚3,000円でCDアルバムを販売し、録音原盤権を10%として設定すると、1枚売れると原盤権者には300円が入ってきます。

300万円を回収するためには、1万枚の販売枚数が必要になります。

CDアルバムに300万円は高い?!

今回の例に出した300万円というのはインディーズのアルバム制作においては割と普通の費用感です。僕自身、インディーズとしてはそれなりに大きなレーベルとプロデューサー契約をしてお仕事をさせて頂いてますが、レーベル担当者からは「予算少なく申し訳ないのですが…」と恐縮される感じです。

もちろん個人アーティストだと高いと感じるかもしれませんが、10曲のアレンジして何人もミュージシャン雇って楽器の手配や消耗品も出して、中期に渡ってスタジオ使ってとなると、それなりに工夫しないといけない金額です。

録音原盤権を20%に設定すれば5,000枚でリクープしますし、40%に設定すれば2,500枚でリクープします。

原盤制作費を100万円に抑えて録音原盤を20%にすれば、リクープ枚数は1,600枚程度になります。

CMや映像作品などで利用される

CDなどの販売は細かい数日の積み上げですが、それに対していわゆる企業案件的な利用もあります。

人気曲などは「広告でBGMに使いたい」などの依頼がくることもあります。

その場合は広告としての原盤利用料として、それなりに纏まった金額を交渉する事例もあります。

ただし原盤権者によって、逆にプロモーションとして無料で使ってもらい、知名度を上げてCDなどの売上で回収するというビジネスモデルもありますので、全てが営利運用されているわけではもありません。

むしろそうした案件の方が数量としては多いです。

YouTubeなどで市販CDなどをBGMに勝手に使う
YouTubeはJASRACと包括契約を交わしており一定の著作権使用料をGoogleがJASRACに支払っています。
そのため「自分で演奏した有名曲の音」をアップすることは問題ありません。
ただし「市販のCDや配信音源」の場合は著作権ではなく「録音原盤権」の問題があります。原則、使用には必ず権利者の許諾が必要になります。

※海外曲はたとえ自演でもシンクロ権があります。

増える共同原盤

録音原盤権とは.005「増える共同原盤」

近年はチャート情報などの見ていても、CDの売上が数千枚でランキング上位に来る時代です。

これまでの通常のCD販売では、まず録音原盤費用の回収は無理です。

そのために握手券を付けたり、同じ録音原盤でジャケット・デザインなどを変えたり限定版と通常版を出したりなど、あの手この手で販売枚数を増やすく涙ぐましい努力をレコード会社は行っています。

音楽配信もダウンロード配信の時はまだ良かったですが、ストリーミングになり月額1,000円程度で聴き放題です。

そのため聴かれれば聴かれるだけ分配率が下がるので、収益は全く上がらないという状態になっている所がほとんどです。

そんな中、というか昔からあるのですが、より重要度を増しているのが「共同原盤」です。

原盤制作費を多くの人で出し合う

例えばよくあるのが、事務所やアーティスト、レコード会社などが共同で録音原盤制作費を出し合うスタイルです。

例えば200万円の制作費が必要だとしたら、2者で100万円づつ出し合い原盤権を50%づつ所有するという感じです。

リスクの分散

こうすることでそれぞれのリスクが分散できます。

1者が全てを出すと費用の負担が大きくなりますが、共同で出し合うことによってそれぞれが少ない投資で作品を世に送り出すことができます。

プロモーションの多角化

レコード会社が原盤費を出すだけれなく、アーティスト事務所が出すことにより「CDプロモーションの為の活動により積極的に協力してくれやすくなる」というような事が言えます。

事務所からすると全て自分達で制作をしてCDを出するよりも、レコード会社やレベールに参加してもらう事により、そのルートでのプロモーション営業に期待をするという面があります。

放送局やCDショップイベントなどのルートはレーベルやレコード会社がコネクションを持っている場合が多いです。

究極の姿がクラウドファウンディング?

こうしてより多くの人を巻き込んでというのの極みが現代の「クラウドファウンディング」かもしれません。

より多くの他者を出資者として巻き込んでSNSなどを中心にしたプロモーション展開を期待する動きが良く見受けられます。

この辺りを書き出すと別の話になるので、またの機会にします。

まとめ

まとめ:請求書は必須。インボイス制度も必ずチェック!

ということで、最後のマトメです。

  1. 録音原盤権とは録音原盤を制作(≒費用を出した)した人が持つ権利。
  2. 原盤権とは録音原盤の所有権であり運用権を持っている。
  3. 他者の録音物を商品の定められた方法以外で利用する場合は必ず原盤権者の許諾が必要。
  4. 原盤権利者は利用を許諾するかしないか、費用など自由に定める事ができる。

となります。

それでは今回はこの辺で。

ではまた。

YouTube動画にもしています。

前編

中編

後編

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